一般社団法人日本鉱物科学会2023年年会・総会

講演情報

口頭講演

S2: 岩石-水相互作用 (スペシャルセッション)

2023年9月14日(木) 14:00 〜 16:30 821 (杉本キャンパス)

座長:土屋 範芳

15:05 〜 15:20

[S2-05] オマーンオフィオライト北部サラヒ岩体マントルセクションにおける蛇紋岩化作用の初期段階

吉羽 洋紀1、*髙澤 栄一1,2、野坂 俊夫3 (1. 新潟大・理、2. JAMSTEC、3. 岡山大・自然研)

キーワード:オマーンオフィオライト、海洋マントル、蛇紋岩化作用、アンチゴライト

海洋マントルにおける蛇紋岩化過程の初期段階を理解するために,オマーンオフィオライト・サラヒマントルセクションのかんらん岩における蛇紋石と付随鉱物の鏡下観察,組成分析,およびラマン分光分析を行った。サラヒマントルセクションのかんらん岩には,リザダイトやクリソタイルなどの低温で安定な蛇紋石が様々な割合で含まれている。高温で安定な蛇紋石であるアンチゴライトも広く分布するが,その頻度はマントルセクションの北西部に向かって減少する傾向がある。アンチゴライトの大部分は幅0.1mmから3.0mmの脈を形成する。アンチゴライト脈の中央部には低温型の蛇紋石が平行に,あるいは脈を横断するように切断している。蛇紋石中(特にアンチゴライト脈中)では,磁鉄鉱はパッチ状または紐状に産出する。磁鉄鉱はほとんどすべての岩石試料に含まれるが,その量と分布は一様ではない。タルクは直方輝石のリムまたは全体を置き換えて,蛇紋石とともにバスタイトを形成する。トレモライトと緑泥石は,しばしばアンチゴライト脈の近傍に出現する。これらはタルクやアンチゴライトなどの他の鉱物と集合体を形成することがある。また,炭酸塩鉱物(方解石,アラゴナイト,マグネサイト)も調査地域全体にわたって出現する。ブルーサイトは脈中にはほとんど存在せず,顕微鏡で確認することは難しい。Si対Mg+Fe分子比のグラフでは,ブルーサイト,かんらん石,蛇紋石の組成はほぼ直線上に並ぶ。メッシュ状の蛇紋石は脈状の蛇紋石よりも組成範囲が広く,SiよりもMg+Feに富む傾向があり,ブルーサイトとの混合が示唆される。一方,脈状のアンチゴライトは,理想的な組成よりもSiに富み,Alも含む可能性がある。かんらん石と接触する蛇紋石では,化学組成からブルーサイトと蛇紋石の混合が示唆される。また,クリソタイルはブルーサイトとアンチゴライトから,蛇紋石と磁鉄鉱はブルーサイトとSiから形成されることから,蛇紋岩化初期の段階で形成されたブルーサイトの多くが反応によって消費された可能性が考えられる。鉄に富むかんらん石が幅0.02-0.3 mmの脈を形成して,しばしばアンチゴライト脈を伴いつつ,初生かんらん石中に存在する。一般的な初生かんらん石のFo含有量は約90であるのに対し,鉄に富むかんらん石は71-88である。鉄に富むかんらん石と接するアンチゴライト脈はMgに富み,Feに乏しい。Mg-Fe相互拡散率は温度が高いほど高いことから,アンチゴライト脈は高温で形成されたか,あるいはアンチゴライト脈形成後に加熱された可能性が考えられる。サラヒマントルセクション全域にアンチゴライトとタルクが存在することから,熱水反応は300-700℃付近で起こったと考えられる。かんらん石,アンチゴライト,トレモライトの共存は,500-600℃での熱水反応の可能性を示唆している。さらに,すべての試料にリザダイトとクリソタイルが存在することから,300℃より低い温度で広範囲に水の浸透が起こったことが示唆される。アンチゴライト脈で観察された切断関係は,かんらん石,アンチゴライト,クリソタイル,磁鉄鉱,炭酸塩鉱物の順に形成したことを示唆する。したがって,蛇紋岩化は温度の漸減とともに進行したと考えられる。アンチゴライトはリザダイトよりもシリカの活量が高いことから,シリカに富む流体の流入あるいは加熱による形成の可能性が示唆される。サラヒ岩体におけるアンチゴライトとタルクの出現頻度の空間分布と古海嶺セグメント構造との関係が示唆される。古海嶺セグメントの中心はサラヒブロックの北に位置するフィズ岩体の南端付近に,セグメントの末端部はサラヒ岩体の南端部に位置すると推定されている。海嶺セグメントの末端付近では,海水がマントル深部まで浸透し,冷却の初期段階でアンチゴライトが形成された可能性が考えられる。一方,サラヒ岩体の北西部は,海嶺セグメントの中心部に近く,深部にあたるため,モホ面近傍や海嶺セグメントの末端部付近よりも高温状態が継続し,アンチゴライトの形成が遅れた可能性がある。その結果,サラヒ岩体の北西部において,アンチゴライトおよびタルクの出現率が低くなった可能性が考えられる。