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[S2-06] 沈み込み帯における含ホウ素流体-岩石相互作用の時期:三波川変成帯の例
「発表賞エントリー」
キーワード:ホウ素、流体、沈み込み帯、三波川変成帯、ミキシングゾーン
沈み込みスラブ表面には、スラブを構成する岩石やマントル物質のプロックが変形したマトリクスに取り込まれるblock in matrix構造を呈し、スラブ由来流体との間で様々な岩石-水反応を起こしながら混合する、「ミキシングゾーン」が存在すると考えられている[1]。電気石は流体中に取り込まれやすいホウ素(B)を主成分にもち、形成時の温度や流体組成などの情報を記録する。また、Bは塩基性岩に数十ppm以下、泥質岩には数百ppm以下しか含まれない[2]。それゆえ、電気石の濃集を形成するには外部からのBの添加が必要であり、その電気石を解析することで流体活動の情報を抽出できる。
三波川変成帯におけるナップ境界やブロック・マトリクス境界での含B流体-岩石相互作用の痕跡として、四国中央部から電気石濃集層が報告されている[3][4]。このうち、愛媛県新居浜市端出場のブロック・マトリクス境界に産する電気石濃集層は包有物の角閃石の組成から、変成ピーク直後以降の後退変成期に形成したとされる[4]。三波川変成帯における含B流体-岩石相互作用の全貌を明らかにするには他地域・他産状での議論が必要となる。本研究ではミキシングゾーンのマトリクス中における含B流体-岩石相互作用のタイミングを制約する目的で、和歌山県紀の川市藤崎の塩基性片岩中に産する緑簾石に富むレンズ中の電気石濃集部分の詳細な研究を行った。
和歌山県紀の川市藤崎では、赤鉄鉱とバロワ閃石を含む曹長石―黒雲母帯の塩基性片岩中に長径約3-20 cm の緑簾石に富むレンズが点在する。多くのレンズ中にはDs変形段階の褶曲構造が見られる。レンズ内外共に主要鉱物組合せは、緑簾石+角閃石+曹長石+緑泥石+石英で、副成分鉱物として白雲母、チタン石、ルチル、赤鉄鉱、燐灰石、電気石を含む。曹長石の斑状変晶がレンズの内外に存在するが、伸びの方向が異なる。
角閃石はレンズ内外で組成累帯構造をもつ。曹長石に包有されない場合、コアからリムに向かってバロワ閃石、普通角閃石、アクチノ閃石の順に組成変化する。この累帯構造は角閃石+緑簾石+緑泥石+斜長石+石英が平衡共存する塩基性片岩の鉱物組合せでは減温減圧を表す[5]。レンズ内の曹長石に包有される角閃石はバロワ閃石~普通角閃石組成を示すため、曹長石がピーク変成時に形成されたと解釈できる。曹長石内の角閃石に対して、角閃石-斜長石温度計[6]を、バロワ閃石と普通角閃石の安定領域が重なる8 kbar [5]を仮定して適用した結果、515-578℃の温度条件が得られ、この温度をピーク変成温度と解釈した。
レンズ内の電気石はDr片理面に沿って濃集し、Ds褶曲に曲げられている。電気石の累帯構造はBSE像で明るいコア、暗いマントル、中間の明るさのリムに分けられる。曹長石に包有される電気石はリムまで成長している。 Ca/(Na+Ca)はコア、マントル(c+極側で 0.04-0.1)、リム(c+極側で>0.1)と増加し、これは定性的に昇温を表す。各段階に対しCa/Naの分配を用いた電気石極性温度計[7]を適用すると、コア、マントルからは490-520℃、リムからは530-560℃が得られた。リム成長時の温度は角閃石-斜長石温度計によって求められたピーク変成温度と一致する。この結果と曹長石との包有関係から、電気石コア、マントルは昇温期に成長し、リムはピーク時に成長したといえる。
以上の結果をまとめると、和歌山県紀の川市藤崎の緑簾石レンズ内部の電気石は、周囲の泥質岩由来の含B流体がDr片理面に沿って流入し形成された可能性が高い。四国中央部の例[4]と総合すると、三波川帯における含B流体は変成ピーク前の昇温期から後退変成期にかけて時間的広がりを持って沈み込み帯表面で活動し、片理面や岩相境界を流路として水-岩石相互作用を引き起したと結論づけられる。
引用文献
[1] Bebout (2007) Earth Planet. Sci. Lett. 260, 373-393.
[2] Dutrow & Henry (2011) Elements 7, 301–306.
[3] 砂田・榊原 (2004) 日本地質学会第111年学術大会講演要旨 235.
[4] 石山ほか (2016) 日本鉱物科学会2016年年会講演要旨集 24.
[5] Okamoto & Toriumi (2005) J. Metamorphic Geol. 23, 335–356.
[6] Holland & Blundy (1994) Contrib. Mineral. Petrol. 116, 433-447.
[7] van Hinsberg & Schumacher (2007) Contrib. Mineral. Petrol. 153, 289–301.
三波川変成帯におけるナップ境界やブロック・マトリクス境界での含B流体-岩石相互作用の痕跡として、四国中央部から電気石濃集層が報告されている[3][4]。このうち、愛媛県新居浜市端出場のブロック・マトリクス境界に産する電気石濃集層は包有物の角閃石の組成から、変成ピーク直後以降の後退変成期に形成したとされる[4]。三波川変成帯における含B流体-岩石相互作用の全貌を明らかにするには他地域・他産状での議論が必要となる。本研究ではミキシングゾーンのマトリクス中における含B流体-岩石相互作用のタイミングを制約する目的で、和歌山県紀の川市藤崎の塩基性片岩中に産する緑簾石に富むレンズ中の電気石濃集部分の詳細な研究を行った。
和歌山県紀の川市藤崎では、赤鉄鉱とバロワ閃石を含む曹長石―黒雲母帯の塩基性片岩中に長径約3-20 cm の緑簾石に富むレンズが点在する。多くのレンズ中にはDs変形段階の褶曲構造が見られる。レンズ内外共に主要鉱物組合せは、緑簾石+角閃石+曹長石+緑泥石+石英で、副成分鉱物として白雲母、チタン石、ルチル、赤鉄鉱、燐灰石、電気石を含む。曹長石の斑状変晶がレンズの内外に存在するが、伸びの方向が異なる。
角閃石はレンズ内外で組成累帯構造をもつ。曹長石に包有されない場合、コアからリムに向かってバロワ閃石、普通角閃石、アクチノ閃石の順に組成変化する。この累帯構造は角閃石+緑簾石+緑泥石+斜長石+石英が平衡共存する塩基性片岩の鉱物組合せでは減温減圧を表す[5]。レンズ内の曹長石に包有される角閃石はバロワ閃石~普通角閃石組成を示すため、曹長石がピーク変成時に形成されたと解釈できる。曹長石内の角閃石に対して、角閃石-斜長石温度計[6]を、バロワ閃石と普通角閃石の安定領域が重なる8 kbar [5]を仮定して適用した結果、515-578℃の温度条件が得られ、この温度をピーク変成温度と解釈した。
レンズ内の電気石はDr片理面に沿って濃集し、Ds褶曲に曲げられている。電気石の累帯構造はBSE像で明るいコア、暗いマントル、中間の明るさのリムに分けられる。曹長石に包有される電気石はリムまで成長している。 Ca/(Na+Ca)はコア、マントル(c+極側で 0.04-0.1)、リム(c+極側で>0.1)と増加し、これは定性的に昇温を表す。各段階に対しCa/Naの分配を用いた電気石極性温度計[7]を適用すると、コア、マントルからは490-520℃、リムからは530-560℃が得られた。リム成長時の温度は角閃石-斜長石温度計によって求められたピーク変成温度と一致する。この結果と曹長石との包有関係から、電気石コア、マントルは昇温期に成長し、リムはピーク時に成長したといえる。
以上の結果をまとめると、和歌山県紀の川市藤崎の緑簾石レンズ内部の電気石は、周囲の泥質岩由来の含B流体がDr片理面に沿って流入し形成された可能性が高い。四国中央部の例[4]と総合すると、三波川帯における含B流体は変成ピーク前の昇温期から後退変成期にかけて時間的広がりを持って沈み込み帯表面で活動し、片理面や岩相境界を流路として水-岩石相互作用を引き起したと結論づけられる。
引用文献
[1] Bebout (2007) Earth Planet. Sci. Lett. 260, 373-393.
[2] Dutrow & Henry (2011) Elements 7, 301–306.
[3] 砂田・榊原 (2004) 日本地質学会第111年学術大会講演要旨 235.
[4] 石山ほか (2016) 日本鉱物科学会2016年年会講演要旨集 24.
[5] Okamoto & Toriumi (2005) J. Metamorphic Geol. 23, 335–356.
[6] Holland & Blundy (1994) Contrib. Mineral. Petrol. 116, 433-447.
[7] van Hinsberg & Schumacher (2007) Contrib. Mineral. Petrol. 153, 289–301.