一般社団法人日本鉱物科学会2023年年会・総会

講演情報

口頭講演

S2: 岩石-水相互作用 (スペシャルセッション)

2023年9月14日(木) 14:00 〜 16:30 821 (杉本キャンパス)

座長:土屋 範芳

15:45 〜 16:00

[S2-07] フッ素の移動・鉱化作用と水-岩石相互作用の関係

「発表賞エントリー」

*砂田 雅裕1、渡辺 寧1、越後 拓也1、青木 翔吾1、瀬野 洸太朗1 (1. 秋田大・院国資)

キーワード:フッ素、スカルン鉱床、山陽帯、蛍石鉱化作用、神武-三原鉱床

揮発性元素の挙動について知ることができれば,これらが関係する地質現象の問題を紐解く情報を得ることができる.そのためには元素の移動,濃集-沈殿メカニズムを解明する必要がある.天然ではスカルン鉱床がいいモデルとなる.スカルン鉱床は水-岩石相互作用が関係する熱水鉱床の一種で,物質移動が盛んに行われる系であり,元素の挙動が「鉱化作用」として詳細に保存されている.広島県には蛍石(Fluorite; CaF2)がスカルンに伴われて産出する神武-三原鉱床があり,この地域でFを沈殿する鉱化作用をもたらす熱水の特徴がわかればスカルン系での揮発性元素「F」の挙動を理解することができる.
 神武-三原鉱床は棚倉構造線以西のF含有量の高いチタン鉄鉱系花崗岩に伴われる.鉱床母岩はルーフペンダント状のジュラ紀丹波帯の堆積岩コンプレックスに後期白亜紀の黒雲母花崗岩が貫入しており,スカルンはその境界に分布する.本鉱床における蛍石鉱化作用は①花崗岩類に伴われるものと②スカルンに伴われる2つの産状がみられる.
 地質調査と顕微鏡観察,EPMAを用いた化学分析による結果を以下に述べる.縞状スカルンの構成鉱物はAndradite, Hedenbergite-Diopside, Vesuvianite(F content: Max 4.11, Ave. 3.43 a.p.f.u.), Albite-Alkali feldsparからなる.一部のスカルンではAndradite + Hedenbergite + Cassiterite (SnO2)の鉱物組み合わせがみられた.花崗岩類では長石+蛍石の鉱物組み合わせからなる「優白質花崗岩」に,スカルンでは,Andradite, Hedenbergite-Diopside, Vesuvianite, Albite-Alkali feldspar, Fluoriteが交互に縞状の組織をなしてみられる.Fは還元環境下で沈殿することがわかっており,これらからAndradite, Diopsideは酸性条件下,Albite-Alkali feldsparは中性~酸性条件下,FluoriteやVesuvianite, Hedenbergiteは還元条件下で含F鉱物はFが熱水から鉱物として保存される条件下になったことが示唆される.このような縞状組織は「Wrigglite」と呼称され,構成鉱物の沈殿条件がリズミカルに変化し,鉱物が互層状に晶出したものであると考えられる.この条件はスカルン系においてPrograde stage (開放系)→Retrograde stage(閉鎖系)に変化したRetrograde stageの始まりから終わりまでの情報を保存している.F(-Sn)に富む鉱化流体はアルカリ花崗岩に類似的に認められることから,アルカリ花崗岩の関与が示唆される.
 スカルン系における揮発性元素「F」の挙動は以下のように考えられる.移動は関係火成岩が冷却し,熱水が放出される開放系から閉鎖系に推移するときから鉱物として保存されるまで,濃集は熱水に分配されたとき,含F鉱物として沈殿するまで,沈殿は還元条件下で含F鉱物として沈殿するというメカニズムである.