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[S2P-04] マントルウェッジ起源超苦鉄質岩中の輝石仮像組織と化学組成
キーワード:黒瀨川帯、マントルウェッジ、輝石仮像、リヒター閃石
マントルウェッジでは,スラブ起源流体の浸透とそれによる交代作用によって含水鉱物が形成され,Ca,Na,Kなどの流体移動元素がマントルウェッジ中に固定されると考えられる.含水鉱物のうち金雲母と角閃石は,アルカリ元素の貯蔵庫として,島弧のマグマ組成変化に関与するなど(Tatsumi, 1989),沈み込み帯における元素移動・元素循環を解明する上で重要な含水鉱物である.キンバーライトに捕獲されたかんらん岩中には,メルトや流体による交代作用によって金雲母やKリヒター閃石が形成され(例えば,Aoki, 1975; Kargin et al., 2019),幌満岩体やフィネロ岩体のようなアルプス型かんらん岩体からも,メルト/流体の交代作用によって金雲母が形成される(例えば,Zanetti et al., 1998; Arai and Takahashi, 1989).また,早池峰・宮守オフィオライトからはメルト由来のKに富むホルンブレンドや金雲母(Ozawa, 1988)が含まれ,大江山オフィオライトのNaに富むトレモラ閃石はマントルウェッジにおけるNa,K交代作用を示唆する(町・石渡, 2010). 関東山地山中地溝帯には,黒瀬川帯相当の蛇紋岩が分布しており,古生代のマントルウェッジに由来すると考えられる(荒井・久田, 1991).関東山地黒瀬川帯に産する蛇紋岩中には,金雲母と角閃石等で置き換えられた輝石仮像が含まれ,スラブ由来のH2O流体による交代作用によって形成されたことが示唆される.本研究では,この黒瀬川帯蛇紋岩中の輝石の交代組織に着目し,古生代沈み込み帯マントルウェッジの交代作用について考察する. 関東山地では,山中地溝帯の白亜紀堆積物の分布域に黒瀬川帯相当の小規模な超苦鉄質岩が存在する.超苦鉄質岩類はハルツバージャイト,ダナイト,単斜輝岩で,ダナイトと単斜輝岩はクロミタイト鉱床を伴って空間的に隣接して産する.いずれも様々な程度に蛇紋岩化し,蛇紋石鉱物としてアンチゴライトが卓越する.主要な変成鉱物はハルツバージャイト中の初生単斜輝石を置換するCa角閃石と初生直方輝石を置換するNaCa角閃石,金雲母,変成単斜輝石,変成かんらん石,アンチゴライトである.さらにモンチセリ石がアンチゴライトとともに初生/変成かんらん石を置き換えて形成される.輝石仮像中の金雲母とNaCa角閃石は高温蛇紋岩化に特徴的なアンチゴライト+鉄に富む変成かんらん石という鉱物組み合わせを伴うことから,500~600℃程度で後退変成作用によって形成されたと考えられる. ハルツバージャイトとダナイト中の初生かんらん石は,Mg#=0.89~0.92,NiO=0.33~0.51wt%とマントルかんらん石組成を示し,クロムスピネルのTiO2量はハルツバージャイトで0.04~0.38 wt%,ダナイトで0.10~0.43 wt%,Cr#(=Cr/〔Cr+Al〕)はハルツバージャイトで0.36~0.66 wt%,ダナイトで0.54~0.85 wt%を示す.輝石仮像内の鉱物のモードから計算した仮像の全体組成は初生直方輝石と比べSiO2,MgOに乏しく,CaO,Na2O,K2Oに富む.ハルツバージャイト中の単斜輝石の微量元素パターンは,軽希土類元素に富み,Nb やTiの負異常とCs,Rb,Baの正異常を示す.直方輝石は,Nbの負異常とCs,Pb,Srに正異常を示す微量元素パターンを示す.直方輝石仮像の微量元素パターンは直方輝石と比べ,同程度の重希土類元素濃度に対し,軽希土類元素(Laで10倍)とCs,Rb,Ba(それぞれ100倍)に著しく富む.金雲母の微量元素はフィネロかんらん岩体のメルト起源の金雲母と比べTiに著しく枯渇し,Csに富むことからH2O流体による交代作用が示唆される.直方輝石を交代する類似の仮像組織は神居古潭帯鷹泊岩体とマリアナ弧コニカル海山に産する超苦鉄質岩からも確認される.構成鉱物はそれぞれNaCa角閃石(+金雲母)+変成単斜輝石+変成かんらん石+アンチゴライトと,NaCa角閃石+Kに富むNaCa角閃石+変成単斜輝石+タルク+アンチゴライトである.仮像鉱物のモード比から計算した仮像全体組成を比較すると,神居古潭帯は黒瀬川帯と比べCaO,K2Oに乏しくNa2Oに富み,コニカル海山はCaO,K2Oに乏しい.ハルツバージャイトとダナイト中にモンチセリ石が形成されることからも黒瀬川帯の超苦鉄質岩に流入した流体は他地域と比べCa,Kに富むことが示唆される.このようなマントルウェッジ起源超苦鉄質岩中の異なる輝石の仮像鉱物は,スラブ脱水流体組成の違いに起因すると考えられる.黒瀬川帯の超苦鉄質岩には,Kに富むスラブ脱水流体が流入したと考えられ,このKに富む流体は,変堆積岩に含まれる雲母の分解反応に関連して形成された可能性がある.