12:00 〜 14:00
[S2P-05] オマーンオフィオライトと西アルプスシュナイエ・ラゴネロオフィオライト蛇紋岩の多世代の炭酸塩脈中の流体包有物が記録する熱水流体
「発表賞エントリー」
キーワード:オフィカーボネート、流体包有物、塩濃度、均質化温度、熱水流体
炭酸塩鉱物は超苦鉄質岩がCOH流体と反応する際に結晶化する。そのため超苦鉄質岩は炭素の最も重要なリザーバーの一つであり、地球規模の炭素循環に大きな影響を与えている。浅部マントルウェッジの炭酸塩化はスロースリップ現象の原因とも考えられており、炭酸塩化の条件と流体の移動性は関心を集めている(Okamoto et al., 2021)。 蛇紋岩化と炭酸塩化は、海洋底熱水循環(Kelly et al., 2001)、沈み込み帯(Beinlich et al., 2020)、陸上での風化(Kelemen et al., 2011)など、様々な環境で起こる。異なる環境で形成された炭酸塩化蛇紋岩(オフィカーボネート)は、海洋リソスフェアの残骸であるオフィオライトに露出している。高速拡大海嶺で形成された海洋リソスフェアはペンローズ型の層状構造をとるが (Anonymous, 1972)、低速拡大海嶺で形成された海洋リソスフェアは斑レイ岩やマントルが海洋底に露出する海洋コアコンプレックスを形成する (Cann et al., 1997; Ohara et al., 2001)。海洋底熱水循環と沈み込み帯での超苦鉄質岩の炭酸塩化反応に違いがあるかもしれない。本講演では高速拡大海嶺で形成されたオマーンオフィオライトと低速拡大海嶺で形成された西アルプスのシェナイエオフィオライトとラゴネロオフィオライトに露出するオフィカーボネートに見られる多世代の炭酸塩脈中の流体包有物の分析結果を報告する。
オマーンオフィオライトのオフィカーボネートは炭酸塩の微量成分元素や酸素・炭素同位体比より海洋底(Type 1)、衝上中(Type 2)、衝上後(Type 3)の異なる環境で形成された炭酸塩脈が蛇紋岩に貫入したと提案されている(Noël et al., 2018)。一方西アルプスのシュナイエオフィオライトのオフィカーボネートは角礫化した蛇紋岩を炭酸塩鉱物が埋める構造をしており、炭酸塩鉱物の大きな結晶や炭酸塩脈が一部の蛇紋岩の角礫中に形成されている(Lafay et al., 2017)。角礫中の炭酸塩結晶(炭酸塩コア)と炭酸塩脈はデタッチメント断層に沿ってマントルが海洋底へ露出する過程で形成され、露出後に海洋底熱水循環によってマトリックス炭酸塩が形成されたと提案されている (Lafay et al., 2017)。ラゴネロオフィオライトのオフィカーボネートは枝状に分岐する炭酸塩脈が蛇紋岩に貫入した構造をしており、沈み込み時の変成を受けている。各炭酸塩脈中の流体包有物のマイクロサーモメトリーの結果は表、図a-lのとおりである。これらの炭酸塩脈中の流体包有物の塩濃度の結果から炭酸塩化を引き起こす流体を分類した。
(i)オマーンオフィオライトのType 1炭酸塩脈とシュナイエオフィオライトのマトリックス炭酸塩中の流体包有物は0-11 wt.% NaCl eq.の幅広い塩濃度をとる(図 a, i)。これは海水が沸騰して分離した水と水蒸気の混合を示唆しており(Kelly & Delaney, 1987)、海洋底の熱水循環によって形成されたという推定と整合的である(Noël et al., 2018; Lafay et al., 2017)。
(ii)オマーンオフィオライトのType 2炭酸塩脈中の大きなカルサイト中の流体包有物のほとんどが0-1 wt.% NaCl eq.の真水に近い塩濃度をとる(図 c)。これは天水の浸透によって形成されたと考えられる。しかし、間を埋める微小なドロマイトに接している大きなカルサイトの中には4 wt.% NaCl eq.を超える流体包有物もあり、天水の浸透後に沈み込み帯流体が混合した可能性がある。Type 2 炭酸塩脈の微小ドロマイト中にも0-1 wt.% NaCleq.の流体包有物と3.5 wt.% NaCl eq.を超える流体包有物が観察され(図 e)、前者は天水、後者は沈み込み帯流体由来であると考えられる。
(iii)シュナイエオフィオライトの炭酸塩コア、ラゴネロオフィオライトの枝状炭酸塩脈には4-6 wt.% NaCl eq.の塩濃度の流体包有物が見られる(図 g, k)。これは塩素を含まない蛇紋岩が海水(3.5 wt.% NaCL eq.)を吸収することによって、相対的に塩濃度が高くなった流体が炭酸塩鉱物を形成したと考えられる(Debure et al., 2019)。このプロセスは、沈み込み帯流体の多くが5 wt.% NaCl eq.を持つことと関連しているかもしれない(Kawamoto et al. 2018; Joachim-Mrosko et al., 2022)。
なお、オマーンオフィオライトの炭酸塩脈は10-100℃の低温で形成されたと提案されているが(Noël et al., 2018)、流体包有物の均質化温度はそれよりも高温を示した(図 b, d, f)。そのため海洋底での熱水環境で形成されたことを提案する。
オマーンオフィオライトのオフィカーボネートは炭酸塩の微量成分元素や酸素・炭素同位体比より海洋底(Type 1)、衝上中(Type 2)、衝上後(Type 3)の異なる環境で形成された炭酸塩脈が蛇紋岩に貫入したと提案されている(Noël et al., 2018)。一方西アルプスのシュナイエオフィオライトのオフィカーボネートは角礫化した蛇紋岩を炭酸塩鉱物が埋める構造をしており、炭酸塩鉱物の大きな結晶や炭酸塩脈が一部の蛇紋岩の角礫中に形成されている(Lafay et al., 2017)。角礫中の炭酸塩結晶(炭酸塩コア)と炭酸塩脈はデタッチメント断層に沿ってマントルが海洋底へ露出する過程で形成され、露出後に海洋底熱水循環によってマトリックス炭酸塩が形成されたと提案されている (Lafay et al., 2017)。ラゴネロオフィオライトのオフィカーボネートは枝状に分岐する炭酸塩脈が蛇紋岩に貫入した構造をしており、沈み込み時の変成を受けている。各炭酸塩脈中の流体包有物のマイクロサーモメトリーの結果は表、図a-lのとおりである。これらの炭酸塩脈中の流体包有物の塩濃度の結果から炭酸塩化を引き起こす流体を分類した。
(i)オマーンオフィオライトのType 1炭酸塩脈とシュナイエオフィオライトのマトリックス炭酸塩中の流体包有物は0-11 wt.% NaCl eq.の幅広い塩濃度をとる(図 a, i)。これは海水が沸騰して分離した水と水蒸気の混合を示唆しており(Kelly & Delaney, 1987)、海洋底の熱水循環によって形成されたという推定と整合的である(Noël et al., 2018; Lafay et al., 2017)。
(ii)オマーンオフィオライトのType 2炭酸塩脈中の大きなカルサイト中の流体包有物のほとんどが0-1 wt.% NaCl eq.の真水に近い塩濃度をとる(図 c)。これは天水の浸透によって形成されたと考えられる。しかし、間を埋める微小なドロマイトに接している大きなカルサイトの中には4 wt.% NaCl eq.を超える流体包有物もあり、天水の浸透後に沈み込み帯流体が混合した可能性がある。Type 2 炭酸塩脈の微小ドロマイト中にも0-1 wt.% NaCleq.の流体包有物と3.5 wt.% NaCl eq.を超える流体包有物が観察され(図 e)、前者は天水、後者は沈み込み帯流体由来であると考えられる。
(iii)シュナイエオフィオライトの炭酸塩コア、ラゴネロオフィオライトの枝状炭酸塩脈には4-6 wt.% NaCl eq.の塩濃度の流体包有物が見られる(図 g, k)。これは塩素を含まない蛇紋岩が海水(3.5 wt.% NaCL eq.)を吸収することによって、相対的に塩濃度が高くなった流体が炭酸塩鉱物を形成したと考えられる(Debure et al., 2019)。このプロセスは、沈み込み帯流体の多くが5 wt.% NaCl eq.を持つことと関連しているかもしれない(Kawamoto et al. 2018; Joachim-Mrosko et al., 2022)。
なお、オマーンオフィオライトの炭酸塩脈は10-100℃の低温で形成されたと提案されているが(Noël et al., 2018)、流体包有物の均質化温度はそれよりも高温を示した(図 b, d, f)。そのため海洋底での熱水環境で形成されたことを提案する。