一般社団法人日本鉱物科学会2023年年会・総会

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S2: 岩石-水相互作用 (スペシャルセッション)

2023年9月15日(金) 12:00 〜 14:00 83G,H,J (杉本キャンパス)

12:00 〜 14:00

[S2P-06] 東南極セール・ロンダーネ山地メーニパに産する含V緑色グロッシュラーに伴う石墨の炭素同位体組成とCOH流体の起源

*河上 哲生1、足立 達朗3、M Satish-Kumar2、東野 文子1、宇野 正起4 (1. 京都大・院理、2. 新潟大・院自然、3. 九州大・院比文、4. 東北大・院環境)

キーワード:大陸衝突帯、COH流体、変成作用、石墨、炭素同位体組成

東南極セール・ロンダーネ山地には6.5-5.0億年前に下部地殻深度で形成された高度変成岩類や10億年前~同時代にかけての火成岩類が露出している。同地域は見かけ上、東アフリカ造山帯とクンガ造山帯が交差する場所に位置しており、ゴンドワナ大陸形成時のテクトニクスを理解するうえで重要な地域である。また、同山地には広く地殻流体活動が記録された岩石が分布しており、衝突帯中~下部地殻における流体活動の研究に最適な地域でもある。同山地はMain Tectonic Boundary (MTB)と名付けられた構造境界によって、NEテレーンとSWテレーンに区分され、前者を構成する変成岩類は650-530 Maの変成時に時計回りの温度-圧力-時間(P-T-t)履歴を示すのに対し、後者を構成する変成岩類は反時計回りにP-T-t履歴を示すとされてきた。 Kawakami et al. (2022)はSWテレーンに属するメーニパ地域の珪線石-黒雲母-ザクロ石片麻岩から時計回りのP-T-t履歴を報告し、約600-560 Maにかけてザクロ石を形成する昇温期変成があり、約560 Maに1.0 GPa, 800 oC程度の最高変成条件を達成したことを明らかにした。また、含石墨珪線石-黒雲母片麻岩に含まれる含V緑色グロッシュラーのU-Pb年代測定から、緑色グロッシュラーが約590 Maに形成されたことを明らかにした。さらに、緑色グロッシュラーのリムに発達するシンプレクタイト (An+V-Cpx+V-Grt+V-Ttn+V-Zoi+Qz+Ap+V-Ti-Fe oxide+Pyh+Py+Cal)中のチタン石のU-Pb年代測定から、約550 Maに減圧に伴うザクロ石分解を経験したことを明らかにした。 含石墨珪線石-黒雲母片麻岩には、稀に直径10 cmに達する緑色グロッシュラーが産し、その周囲には石英からなる殻を伴うことがある。その石英中にはCO2+CH4を含む流体包有物が存在している。このため、緑色グロッシュラーの粗粒化には流体活動が関与した可能性がある。また、緑色グロッシュラーの周囲の面構造に調和的なプレッシャーシャドウの形状をしているシンプレクタイトが見つかった。このことは、シンプレクタイトの形成同時ないしはその後に、Sil+Btの鉱物配列によって定義されるマトリクスの面構造が形成されたことを示す。シンプレクタイトの最外縁部は内部より粗粒であり、粗粒な石墨を伴う。この石墨のC同位体組成を測定したところδ13C=-24.74±0.01であった。これは生物起源と言ってよい低い値である(e.g., Luque et al., 2012)。緑色グロッシュラー内のクラックに沿ってもシンプレクタイトが形成されており、その延長上には直線的で周囲に比して高V濃度をもつグロッシュラー部分として認識されるヒールドクラックが見られる。またヒールドクラックに沿って、方解石の包有物が見られる。従って、シンプレクタイト化時にCOH流体の流入が起きたと考えられる。クラックに沿って発達したシンプレクタイト中にも稀に石墨を産することから、減圧期に流入したCOH流体から石墨の一部が再結晶化したことがわかる。また、石墨を伴うシンプレクタイト最外縁部の粗粒化にも、同流体が寄与したと考えられる。Vの濃集には還元的な環境が必要であることから、含石墨珪線石-黒雲母片麻岩は原岩の時点から炭質物に富んでいた可能性が高い。従ってCOH流体は、含石墨珪線石-黒雲母片麻岩中の石墨とH2O流体が反応して生じた可能性が高い。