2024 Annual Meeting of Japan Association of Mineralogical Sciences (JAMS)

Presentation information

Oral presentation

R1: Characterization and description of minerals (Joint Session with The Gemmological Society of Japan)

Thu. Sep 12, 2024 10:00 AM - 12:00 PM ES024 (Higashiyama Campus)

Chairperson:Masanori Kurosawa, Hiroshi Kitawaki

10:00 AM - 10:20 AM

[R1-01] Determination of analytical conditions in quantitative electron probe microanalysis of ultra-trace elements: probe current and sampling time

「招待講演」

*Takenori KATO1 (1. ISEE, Nagoya University)

Keywords:electron probe microanalysis (EPMA), trace elements, quantitative analysis, analytical conditions

電子マイクロプローブアナライザー(EPMA)は、加速した電子を試料に照射し、発生するX線の強度を計数してミクロンスケールの化学組成を非破壊で分析することができる。近年EPMAを用いた極微量元素定量分析が様々な地質学的試料に対して行われ、分析条件などについて様々な検討がなされている。電子が試料に照射された時、特性X線と連続X線が発生する。特性X線の真の強度を直接計数することができないため、波長分散型分光法(WDS)では、通常バックグラウンドとなる連続X線の強度(IBG)を推定し、ピーク強度(IOBS)から差し引いて特性X線の真の強度(IPK)を推定する。すなわち、
IPK = IOBSIBG(式1)
となる。この時、特性X線の強度の誤差は、
δIPK2 = δIOBS2 + δIBG2(式2)
と表される。ただし、δXXの誤差を表す。 微量元素の測定において、(1)検出限界から分析条件を決定する場合と、(2)目標とする濃度と相対誤差を決めて決定する場合について考える。測定対象元素の臨界励起ポテンシャルと試料内での電子線の散乱をどこまで許容するか、および、どの程度のX線強度を得る必要があるかが決まれば加速電圧はほぼ決まる。そこで、照射電流と計数時間の積について検討する。以下では計算を簡略化するため、ピーク強度と連続X線の強度の計数時間は同じであるとし、照射電流は一定であるとする。また、X線の計数値はポアソン分布に従うものとする。さらに、標準物質や補正計算に起因する誤差は無視できるものとする。

(0) 単位電流・単位濃度あたりの特性X線とバックグラウンド強度の推定
 特性X線の強度は濃度にほぼ比例する。そこで、標準物質を測定し、その濃度と分析条件から、電流1 nAあたりの濃度1 μg/gにおける特性X線強度(Ic1)を求める。次に、未知試料の測定を行い、電流1 nAあたりのバックグラウンド強度(I2)を求める。これらの値をあらかじめ測定しておき、以下のように分析条件を求める。

(1) 検出限界から電流と計数時間を決定する場合
 検出限界は、単純に特性X線の真の計数値(NPK)がバックグラウンドの計数値 (NBG)の誤差の3倍で定義されるものとする。この時、ピークの計数値(NOBS)は、
NOBS = NBG + 3·(NBG)1/2 (式3)
と表される。検出限界をCDL μg/gとすると、照射電流がi nA、計数時間がt秒である場合の検出限界は、
(Ic1·CDL + I2it = I2it + 3·(I2·it)1/2 (式4)となる。
したがって、it = 9I2 / (Ic1·CDL)2 (式5)
(例)Ic1 = 0.001 cps·nA–1·g·μg–1I2 = 3.2 cps·nA–1の場合、
it = 2.88×107 / CDL2 (式6)
が得られる。

(2) 目標の濃度と相対誤差を設定する場合
 濃度CT μg/gにおける誤差をδCTとし、RSD = δCT / CTとする。照射電流がi nA、計数時間がt秒である場合、特性X線の真の計数値 (NPK)、バックグラウンドの計数値 (NBK)及びピークの計数値 (NOBS) はそれぞれ、
NPK = Ic1·CT·it (式7)
NBK = I2·it (式8)
NOBS = (Ic1·CT + I2it (式9)
となる。RSD = δNPK / NPKとして、
RSD = [(Ic1·CT + I2it + I2·it]1/2 / [(Ic1·CT + I2itI2·it] (式10)
となり、
it = (Ic1·CT + 2I2) / (Ic1·CT·RSD)2 (式12)
と表すことができる。

 以上のように照射電流と計数時間の積が得られるので、試料の損傷や測定時間を考慮して適切な分析条件を決める。そして、実際に測定を行い要求が満たされているか評価し、必要に応じて照射電流や計数時間を変更することで最適な測定条件を決定する。
 さて、式2に表されるように、微量元素のEPMA定量分析ではバックグラウンドの不確かさが主要元素の分析に比べて大きく影響する。バックグラウンドの誤差要因として、計数値のほかに、(1)微弱な発光スペクトルの重なり、(2)バックグラウンド形状のモデルの正しさや、(3)バックグラウンドホールの影響などがある。これらについて、あらかじめ十分に検討しておかなければならない。また、大電流測定ではX線強度が高くなるため、不感時間補正の正確さも重要になる。