一般社団法人日本鉱物科学会2024年年会・総会

講演情報

口頭講演

R1:鉱物記載・分析評価(宝石学会(日本) との共催セッション)

2024年9月12日(木) 14:00 〜 15:15 ES024 (東山キャンパス)

座長:門馬 綱一(国立科学博物館)、白勢 洋平(愛媛大学)

14:00 〜 14:15

[R1-08] マダガスカル産天然サファイア中のウルトラナノインクルージョン

*三宅 亮1、乙 星華1、伊神 洋平1、江森 健太郎2 (1. 京都大学、2. 中央宝石研究所)

キーワード:ウルトラナノインクルージョン、コランダム

【はじめに】サファイアという宝石名で一般的に広く知られているコランダム(Al2O3, Crn)には、しばしば針状のルチル(TiO2)がインクルージョンとして含まれる。しかし、マダガスカル産の天然サファイア中では、ルチルとは異なるナノインクルージョンが発見されている(Shen et al., 2012; 江森ほか, 2018)。Shen et al. (2012)は、イラカカ産非加熱サファイア中のBe, Ti, Nb, Taを微量に含む雲状に濁った箇所からナノインクルージョンを観察し、長さ20~40 nm、幅5~10 nm で、α-PbO2構造をもつTi-richな単一相(スリランカイト)であると報告した。江森ほか(2018)も、Be, Ti, Nb, Taを微量に含むディエゴ産天然サファイア中にTi, Nb, Taを含む長さ40 nm、幅10 nm程度のナノインクルージョンを発見し、組成がBe: Ti : Nb : Ta = 3 : 16 : 1 : 4の未知の鉱物である可能性があるとした。昨年2023年の鉱物科学会において、江森ほか(2018)で報告したナノインクルージョンは、α-PbO2構造を持つ「スリランカイト」であったことを報告した。さらに10nm以下のさらに小さいウルトラナノインクルージョンが存在することもあわせて報告したが、この相については未決定であった。本発表では、この相についての報告を行う。
【試料と手法】本研究では、昨年の発表と同じ江森ほか(2018)で使用した天然Beを含有するマダガスカル・ディエゴ産非加熱ブルーサファイア原石サンプルを用いた。このサンプルは、江森ほか(2018)の分析により、LA-ICP-MSを用いて分析が行われており、Beが一番高濃度であった付近で、FEI(Thermo Fisher scientific)社Helios G3 CXを用いてFIB加工を行いコランダム(Crn)の[001]方向からの試料を作製し、JEOL JEM-2100Fを用いてTEM観察を行った。
【結果と考察】4D-STEM (Diffraction Mapping)の結果、10nm以下のウルトラナノインクルージョンからは、コランダムおよびスリランカイトとは異なる反射がえられた。このウルトラナノインクルージョンのSTEM-EDS分析では組成の情報は得られなかった。一方で、昨年報告したアトムプローブを用いた分析の結果、ナノインクルージョン中にTi, Fe, Nb, Taが含まれていることがわかった。このアトムプローブで分析したナノインクルージョンの大きさが10nm以下であることから、TEMで回折図形が得られたウルトラナノインクルージョンが同じであるとして、以下に考察を行う。電子回折図形を指数付けした結果、このウルトラナノインクルージョンはWolframite 構造 (P2/c)と呼ばれるABO4酸化物構造として説明がつくことがわかった。つまり(Ti, Fe, Nb, Ta)2O4組成の酸化物によりなると考えられる。Wolframite 構造はα-PbO2構造を基本構造としつつ、陽イオンの位置にA, Bが秩序配列した構造である。このウルトラナノインクルージョンと母相であるコランダムの間には{010}inclusion || {10-10}Crn、{100}inclusion || {0001}Crn、{001}inclusion || {1-210}Crn という、昨年報告した「スリランカイト」とコランダムとで得られた方位関係と同じ方位関係が得られた。またスリランカイト同様に3連双晶も確認された。ウルトラナノインクルージョン相と母相がトポタキシャルな関係であり、ウルトラナノインクルージョンがコランダムから析出してできたことを示唆する。
Shen A. & Wirth R., (2012). Gems & Gemology, 48(2), 150-151江森健太郎, 北脇裕士, 三宅亮 (2018) GCL通信, 45号, 1-8