一般社団法人日本鉱物科学会2024年年会・総会

講演情報

口頭講演

R2:結晶構造・結晶化学・物性・結晶成長・応用鉱物

2024年9月14日(土) 09:00 〜 12:00 ES024 (東山キャンパス)

座長:則竹 史哉、永嶌 真理子、徳田 誠(熊本大学)

11:30 〜 11:45

[R2-10] ペロブスカイト構造を有する(Li,La)TiO3のLi電導度測定値とSIMS測定中のLi移動の整合性に関する研究

*坂口 勲1、大西 剛1 (1. 物質・材料研究機構)

キーワード:ペロブスカイト構造

「緒言」カーボンニュートラルで温暖化を抑制する方向に社会が動き出し、この流れを受けてリチウム2次電池、水素燃料電池他の研究が推進されてる。リチウム2次電池の中でも車載に向けた全固体Li電池の開発はカーボンニュートラルの達成、電気自動車の安全性に重要と位置付けられ、活発な研究・開発が行われている。全固体リチウム電池を構成する電解質では多くの酸化物が提案されている。ここではその中でもペロブスカイト構造を有する酸化物である(Li,La)TiO3を取り上げる。この物質のLi電導度は粒子内のバルク電導度が大きく1x10-3 S/cmに達する、一方で結晶粒界ではLi電導度が小さく(1x10-4 S/cm)、粒界での電導度の改善が課題となっている。このような室温で物質内を移動するLiを分析するには軽元素分析に有利な2次イオン質量分析法が考えられるが、イオンをサンプル表面に照射するために、照射による表面電荷の蓄積によりLiが移動してしまう。通常はサンプル冷却のような機構は必要である。今回、表面電荷の蓄積を利用したLi電池電解質に関して2次イオン質量分析法を応用する新しい手法を試した。その得られた分析結果と電気的評価を合わせて紹介する。
「実験」
(Li,La)TIO3(以下、LLT)は東邦チタニウム社から板、ディスク、粉末等を購入でき、今回は標準サンプルとして板状を利用した。これに対する比較試料は新たに合成した。サンプル合成はLLT粉末(豊島製作所)と酸化ランタン(La2O3 高純度科学)を用いて合成した。La2O3の使用に際して、粉末を1000 ºCで3時間加熱し、水成分を取り除いた。使用したLLT粉末はLiリッチの組成((La0.57,Li0.29)TiO3)でCubic構造である。これにLa2O3を添加し、目的のLi電導度になるように合成した。分析はNIMS設置のSIMS (CAMECA, IMS-4f)を利用し、酸素負イオンを1次イオンに、正の2次イオンを検出した。照射した1次イオンの電流量は2-3 nA程度あり、400x400 μm領域を走査した。
「結果と議論」
図1に購入したLLTの分析結果を示す。図1(a)は1次イオン照射直後のLiの2次イオンイメージで、Liは全体的に均一な強度が得られた。図1(b)は1次イオンを連続照射した後のLiの2次イオンイメージである。Liの強度には明らかな不均一性が見られるようになった。このディスクは数百μmの巨大粒子の隙間を数十μmの粒子が埋める構造である、これを考えると図1(b)のLi強度分布はディスク内の微細構造を反映している。分析中に1次イオン、酸素負イオン、を照射すると、照射領域はマイナスになる、Liはプラスイオンであり、その電荷を補償するようにLiが移動すると考えられる。Liが高強度に変化した領域は巨大粒子であり、Li電導度が1x10-3 S/cmに達している領域である。1次イオンの電流密度が小さいために、表面に移動してきたLiは酸素と反応しLiOxを生成していると考えられる。また、Li強度が小さい領域は数十μmの粒子が多い領域であり、粒界の寄与が大きくなる。粒界のLi電導度は6x10-4 S/cmであるために、ディスク内のLiの移動量が少ないために、このようなLi強度の不均一が生成されたと考えられる。
「まとめ」Li電池の電解質のような物質では室温でLiが物質内を移動する。このため、2次イオン質量分析法のような手法では評価が難しい。今回の研究で、1次イオン照射で表面の電荷状態を変化させることでLiを移動させられることが明らかとなり、その移動経路が電気的測定で分かる移動経路と同じであることが分かった。この手法を最適化することにより、結晶方位や粒界の詳細な評価が可能となると期待している。
R2-10