2024 Annual Meeting of Japan Association of Mineralogical Sciences (JAMS)

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Poster presentation

R4: Mineral sciences of the Earth surface

Fri. Sep 13, 2024 12:30 PM - 2:00 PM Entrance Hall (Higashiyama Campus)

12:30 PM - 2:00 PM

[R4-P-04] Formation Process of Carbonate Minerals in Non-aqueous Solvents: Consideration of the Effects of Different Hydration States of Cations

Naoki IWANE1, *Jun KAWANO1, Hiroyuki KAGI2, Ayako SHINOZAKI1, Takaya NAGAI1 (1. Hokkaido Univ. Sci., 2. UTokyo Sci.)

Keywords:calcium carbonate, hydration, polymorph, amorphous

【はじめに】
 炭酸カルシウムCaCO3は、常温常圧で安定なcalcite、高圧相であるaragoniteなど様々な多形をもつ。これらに加えて、monohydrocalcite (MHC)、ikaiteなどの水和物や非晶質相も存在しており、水溶液中における炭酸カルシウムの形成プロセスにおいては、これらの準安定相が容易に形成して複雑な様相を示す。さらに溶液中にMg2+が存在すると、このような形成プロセスに大きな影響を与えることが古くから注目されている。例えば、Mg2+は固相中に取り込まれにくい一方で、aragoniteやMHCの形成を促進することが知られているほか、非晶質相の安定性や相変化に影響を及ぼすとの報告もある。一般的に、このような現象が生じるのは、水溶液中のMg2+がCa2+に比べて強固な水和殻を形成しており、脱水和しにくいためであると信じられているが、現時点で詳細なメカニズムは不明である。
 本研究においては、有機溶媒と水との混合溶液を用いることで、溶存する陽イオンの水和状態が異なる状況を実現できると考え、そこからの炭酸塩形成プロセスを解析することで、陽イオンの水和状態の違いの影響を検討することを試みた。ここでは、双極子モーメントが水と比較的近いホルムアミド(NH2CHO)と水を、一定の割合で混合した溶媒について、①溶存させた陽イオンの水和状態が実際に変化するかを評価するとともに、②その混合溶媒を用いたMg-Ca-CO3系の合成実験を行って、炭酸塩鉱物の形成プロセスに水和状態の違いがどのように影響を及ぼすかを解析した。
【陽イオンの水和状態の評価】 
 液中のイオンが水和すると、水分子同士の水素結合の状態が変化する。そのため、ラマン分光分析を行えば、O-H伸縮振動のスペクトルの違いとして、水和状態を評価できる。本分析にあたっては、水のO-H伸縮振動とホルムアミドのN-H伸縮振動の波数帯が重なるため重水を用い、割合を変えて混合したホルムアミドとの混合溶媒を作成した。これらの溶媒に、CaCl2・2H2OまたはMgCl2・6H2Oを0~1.5Mとなるように溶解させた溶液について、ラマン分光分析を行ってCa2+およびMg2+の水和状態を評価した。
 それぞれのホルムアミド割合の混合溶媒に溶解する陽イオンの濃度を増加させていくと、O-Dラマンスペクトル形状が変化し、水和状態が変わっていることが確認された。ホルムアミド割合が高い混合溶媒ほどその変化量は小さくなっており、陽イオンが水和しにくくなっていると考えられる。この傾向は、Mg2+の方がCa2+に比べて強い。特にホルムアミド割合50%の混合溶媒では、Mg2+の濃度変化に伴うO-Dスペクトル形状の変化が見られず、この溶媒中でMg2+はほぼ水和していないことが示唆される。以上を踏まえ、これらの混合溶媒を用いた炭酸塩鉱物の合成実験を行った。
【混合溶媒中での炭酸塩鉱物合成実験】
 炭酸塩鉱物の合成は、上記の混合溶媒中に、CaCl2・2H2OとMgCl2・6H2Oをそれぞれ10mM含む溶液と、Na2CO3を20mM含む溶液を混合し、25℃で攪拌することにより行った。混合直後、1時間、2時間、24時間後にろ過することで析出物を回収し、粉末X線回折により相を同定した。
 その結果、いずれの実験においても溶液混合直後に白濁が生じ、これらは非晶質相であることが明らかになった。溶媒として水のみを用いた実験では2時間後に非晶質相が結晶化していたのに対し、ホルムアミド割合50%の溶液では混合直後に回収した試料から、結晶による回折ピークが検出された。上記より、ホルムアミド割合の高い溶媒ほどMg2+の水和の影響は少ないと考えられるため、この結果は、水和したMg2+が多く存在するほど、非晶質相の存在期間が長くなったものと解釈できる。また、最終的に形成する多形について、水のみの溶液からはMHCが析出し、ホルムアミド割合が10%の溶液からはaragoniteが、25%以上ではcalciteが析出した。従来の報告では、溶液中のMg2+濃度が高いとMHCやaragoniteが析出しやすいとされているが、水和していないMg2+の影響が強くあらわれると考えられるホルムアミド混合溶媒からcalciteが析出したことは、MHCやaragoniteの析出に影響を与えるのは、水和したMg2+であることを示している。
 本研究により、有機溶媒と水の混合溶媒を用いることで、溶存する陽イオンの水和状態が異なる状況を実現できることが確認された。今後様々な条件で実験を行ない、Mg2+の結晶への取り込み量などを検討することにより、結晶成長における水和の影響の実態を明らかにすることができると期待される。