一般社団法人日本鉱物科学会2024年年会・総会

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R5:地球外物質

2024年9月14日(土) 12:30 〜 14:00 エントランスホール (東山キャンパス)

12:30 〜 14:00

[R5-P-04] Yamato-8448ユレイライト中炭素質物質の内部組織分析

*安武 正展1、松本 恵2、𡈽山 明3,4、上杉 健太朗1、竹内 晃久1、山口 亮5 (1. 高輝度光科学研究センター、2. 東北大、3. 立命館大、4. 広州地球化学研究所、5. 国立極地研究所)

キーワード:ユレイライト、ダイヤモンド、放射光X線CT

はじめに:ユレイライトはエコンドライトの一種であり、それらの中では唯一多量の炭素を含む。その中にはダイヤモンドが含まれ、その形成過程について数種の仮説が提唱されている。これまで我々は、放射光CTによってDaG 999ユレイライト中の炭素質物質の内部組織は複雑かつ多様である事を明らかにした。本研究では、強い衝撃を経験していないにも関わらず、ダイヤモンドが産する事が報告されている[1]、Yamato (Y-)8448ユレイライトを分析し、ダイヤモンドの形成過程について考察を行った。
試料と分析手法:国立極地研究所より薄片試料の貸与を受け分析を行った。炭素質物質は、分布と形状を光学顕微鏡観察により観察し、国立極地研究所にて顕微レーザーラマン分光装置により表面分布相の同定を行った。表面元素組成分析はSPring-8にてFIBに搭載されたEDSにより行った。その後関心領域の微小試料(約40 µm)をFIBにより作成した。微小試料の内部組織観察はSPring-8、BL47XUに設置されたナノCT装置を用いて行った。
結果と考察:Y-8448は、粗粒組織を持ち、主にカンラン石と少量の低Ca輝石よりなる。炭素質物質は、ケイ酸塩鉱物中もしくは粒界に沿うように板状に産する。カンラン石はクロスニコル下にて明瞭な消光を示し、平面割れ目は卓越していない。衝撃度合いU-S2相当であり、強い衝撃を経験していないと考えられる。炭素質物質のマクロ組織は可視光反射光下において表面から出っ張った黒色部と平坦な茶色部に分けられる。境界は明瞭であり、黒色部のラマンスペクトルは1333cm-1付近にピークがあり主にダイヤモンドから成ると推測される。一方、茶色部のラマンスペクトルは1354-1、1584-1、1624-1付近にピークがあり主にグラファイトから成ると推測される。二つの領域には化学組成差が確認され、比較すると黒色部は炭素に加え硫黄と鉄を含むが、茶色部は炭素を主体とし鉄や硫黄に乏しい。炭素質物質のうち、黒色部と茶色部両方を含む物を一つ選択し、黒色部、茶色部、その境界部の3領域から微小試料をサンプリングしナノCTによる内部観察を行った。
黒色部は全体がほぼダイヤモンドから成っており薄い膜に仕切られている。この膜はほぼ60度120度で交差し(図1a)、主にグラファイト様の低密度物質、まれに鉄に富む相から成っている。3次元的に観察すると正四面体とその頂点を切った形状が連なったような構造となっている。この構造は少なくとも一辺40 µmの試料全体に分布する。ダイヤモンドは非常に多量の包有物を含む。多くは硫化鉄であり、一部は鉄ニッケル合金もしくは鉄ニッケル炭化物である。微小試料表面の元素分布とCT像を比較すると、ダイヤモンドを区切る面構造に一致する領域に鉄と硫黄が濃集していた。一方、茶色部はほぼ全体がグラファイトからなり、その劈開に由来すると思われる層状構造を持つ(図1b)。鉄に富む相はほぼ含まれず、稀に層構造の間にわずかに分布するのみである。これら黒色部と茶色部の二つの領域の境界では鉄に富む層が分布する(図1b)。主に(水)酸化鉄から成っており、一部は鉄ニッケル合金であった。また少量の硫黄が検出される。このことから鉄ニッケル合金と硫化鉄から成っていた層が風化したものであると考えられる。境界層付近では特徴的な多孔質になった虫食い状のダイヤモンドが見られる。
これらの結果は、先行研究によって提唱されたFe-C系の流体存在下でダイヤモンドが形成した可能性を支持するものである[1]。一方で、本研究では黒色部に鉄、硫黄が偏在している事から実際にはFe-S-C系であったと推測される。また、観察された組織と合成ダイヤモンドの組織を比較すると、スケールに違いがあるものの、HPHT法により合成された平行連晶組織を持つダイヤモンドに類似する[2]。黒色部と茶色部の境界に見られる鉄に富む相は金属溶媒を用いたHPHT法における金属フォイルのような役割をしていたかもしれない。もし、このようなプロセスでダイヤモンドが形成されたとすると、多量に観察された包有物、鉄に富む膜は、結晶成長過程で取り込まれたものと考えられる。またユレイライトは母天体崩壊により急冷されたことが知られており、境界付近に存在する虫食い状ダイヤモンドは、その際の急減圧によってダイヤモンドが分解され生じた可能性が考えられる。
このような溶媒環境下でのダイヤモンド形成プロセスは、Y-8448が強い衝撃を経験していないにも関わらずダイヤモンドを含むことを整合的に説明する事ができるかもしれない。[1] Nakamuta et al. (2016) JMPS, 111, 252-269. [2]Chepurov et al. (2020) EJM, 32, 41-55.
R5-P-04