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[R6-P-01] マリアナ前弧蛇紋岩泥火山に産する直方輝石沈積岩:前弧モホ遷移帯の構成岩類
キーワード:蛇紋岩、オフォライト、マリアナ前弧、モホ遷移帯、沈積岩
伊豆・ボニン・マリアナ弧(IBM弧)は、約50Maに太平洋プレートのフィリピン海プレートへの沈み込みによって形成された未成熟な海洋性島弧で、IBM弧前弧域には沈み込み帯形成初期のプロセスが記録されていると期待される。IBM弧前弧で見られる火成層序は、拡大環境によって形成されるMORBに類似した玄武岩(前弧玄武岩:FAB)から、より枯渇したマントルのフラックス溶融によって形成されるボニナイトへの移行を示唆する(Ishizuka et al., 2014)。IBM弧前弧域には、蛇紋岩海山と呼ばれるマントル由来の泥火山が点在しており、前弧マントルに由来する岩片を包有する(Fryer., 1987)。2022年に独国海洋調査船ゾンネによって実施されたSO292/2航海では、3つの蛇紋岩海山から岩石採取が実施された。そのうち海溝からの距離が最も近い蛇紋岩泥火山からは、ボニナイト、ノーライト、直方輝岩、ガブロノーライト、蛇紋岩化したかんらん岩が回収された。本研究では、これらの岩石学的、地球化学的特徴を明らかにし、それらの成因と前弧地殻~マントル構造、島弧形成初期の環境の復元を試みる。
本研究のボニナイトは、かんらん石(15 vol%)、直方輝石(11 vol%)、クロムスピネル (<1 vol%)、クリノエンスタタイト(<1 vol%)の斑晶を含む高Siボニナイト(HSB; Pearce and Reagan, 2019)で、石基(72 vol%)には単斜輝石と直方輝石の急冷結晶とガラスが含まれる。ノーライトと直方輝岩は、直方輝石(39 vol%、70 vol%)、斜長石(6 vol%、1 vol%)、単斜輝石 (1 vol%、<1 vol%)の初生鉱物と、蛇紋石などの変成鉱物(54 vol%、26 vol%)で構成され、直方輝石を単斜輝石がポイキリティックに包有する。ガブロノーライトは、斜長石(32 vol%)、直方輝石(14 vol%)、単斜輝石 (16 vol%)、石英(5 vol%)と変成鉱物(34 vol%)から構成される。かんらん岩はハルツバージャイトとダナイトであり、沈積岩と溶け残り岩がある。沈積性かんらん岩は、蛇紋石化したかんらん石仮像(76 vol%)を直方輝石仮像(12 vol%)がポイキリティックに囲み、<6 µmの珪長質包有物を含むクロムスピネル(4 vol%)が両方の仮像に包有される。溶け残りかんらん岩は、蛇紋石化したかんらん石仮像(78 vol%)と、稀に残存直方輝石を含むバスタイト(16 vol%)と単斜輝石(<1 vol%)、クロムスピネル(2 vol%)からなる。ノーライト、直方輝岩、沈積性かんらん岩中のクロムスピネルのCr#は 0.60-0.72で、HSBのクロムスピネルの値(0.78-0.86)よりも、低Siボニナイト(LSB)のクロムスピネルの値に類似する。溶け残りかんらん岩中のクロムスピネルの値(0.46-0.70)は試料によってLSBからFABの組成を示す。ガブロノーライト中に共存する斜長石のAn値と単斜輝石のMg#の関係は、中央海嶺玄武岩と島弧ソレアイとの中間的組成を示すFABに類似する一方で、ノーライトと直方輝石岩は、ボニナイトの分化トレンド上の組成を示す。分配係数から求めた直方輝石沈積岩中の単斜輝石はLSBに類似したフラット~中希土類にやや枯渇したパターンを示す。ガブロノーライト中の単斜輝石と平衡な液相の希土類元素パターンは、FABに類似した軽希土類元素に枯渇したパターンを示すが、単斜輝石は直方輝石沈積岩と同様のHFSE元素に枯渇したパターンを示し、LSBとの成因的関連性が示唆される。
沈積岩類の鉱物組み合わせと鉱物化学組成は、これらがLSBマグマからの結晶沈積によって形成されたことを示唆する。IODP第352次航海では、LSBの枕状溶岩とその下位にある複合岩脈が採取されたことから、LSBがFABに続き拡大環境で形成された可能性が示されている(Reagan et al., 2015)。もしそうならば、マリアナ前弧域には、LSBマグマ生成を通じて形成された"オフィオライト層序"が存在するだろう。マリアナ海溝陸側斜面には、ボニナイトマグマ由来の閃緑岩質深成岩も露出する(Jonson et al., 2014)。本研究の沈積岩類は、海底拡大環境でLSB質地殻と溶け残り岩の間に形成されたモホ遷移帯に由来する可能性がある。Ichiyama et al. (2021)は、海溝からマリアナ蛇紋岩海山の距離に従い、より深部の蛇紋岩化マントルが泥火山中の岩片として上昇していることを示した。海溝に最も近い蛇紋岩海山から沈積岩類が産出することは、蛇紋岩化が前弧モホ遷移帯に達している可能性を示唆する。
本研究のボニナイトは、かんらん石(15 vol%)、直方輝石(11 vol%)、クロムスピネル (<1 vol%)、クリノエンスタタイト(<1 vol%)の斑晶を含む高Siボニナイト(HSB; Pearce and Reagan, 2019)で、石基(72 vol%)には単斜輝石と直方輝石の急冷結晶とガラスが含まれる。ノーライトと直方輝岩は、直方輝石(39 vol%、70 vol%)、斜長石(6 vol%、1 vol%)、単斜輝石 (1 vol%、<1 vol%)の初生鉱物と、蛇紋石などの変成鉱物(54 vol%、26 vol%)で構成され、直方輝石を単斜輝石がポイキリティックに包有する。ガブロノーライトは、斜長石(32 vol%)、直方輝石(14 vol%)、単斜輝石 (16 vol%)、石英(5 vol%)と変成鉱物(34 vol%)から構成される。かんらん岩はハルツバージャイトとダナイトであり、沈積岩と溶け残り岩がある。沈積性かんらん岩は、蛇紋石化したかんらん石仮像(76 vol%)を直方輝石仮像(12 vol%)がポイキリティックに囲み、<6 µmの珪長質包有物を含むクロムスピネル(4 vol%)が両方の仮像に包有される。溶け残りかんらん岩は、蛇紋石化したかんらん石仮像(78 vol%)と、稀に残存直方輝石を含むバスタイト(16 vol%)と単斜輝石(<1 vol%)、クロムスピネル(2 vol%)からなる。ノーライト、直方輝岩、沈積性かんらん岩中のクロムスピネルのCr#は 0.60-0.72で、HSBのクロムスピネルの値(0.78-0.86)よりも、低Siボニナイト(LSB)のクロムスピネルの値に類似する。溶け残りかんらん岩中のクロムスピネルの値(0.46-0.70)は試料によってLSBからFABの組成を示す。ガブロノーライト中に共存する斜長石のAn値と単斜輝石のMg#の関係は、中央海嶺玄武岩と島弧ソレアイとの中間的組成を示すFABに類似する一方で、ノーライトと直方輝石岩は、ボニナイトの分化トレンド上の組成を示す。分配係数から求めた直方輝石沈積岩中の単斜輝石はLSBに類似したフラット~中希土類にやや枯渇したパターンを示す。ガブロノーライト中の単斜輝石と平衡な液相の希土類元素パターンは、FABに類似した軽希土類元素に枯渇したパターンを示すが、単斜輝石は直方輝石沈積岩と同様のHFSE元素に枯渇したパターンを示し、LSBとの成因的関連性が示唆される。
沈積岩類の鉱物組み合わせと鉱物化学組成は、これらがLSBマグマからの結晶沈積によって形成されたことを示唆する。IODP第352次航海では、LSBの枕状溶岩とその下位にある複合岩脈が採取されたことから、LSBがFABに続き拡大環境で形成された可能性が示されている(Reagan et al., 2015)。もしそうならば、マリアナ前弧域には、LSBマグマ生成を通じて形成された"オフィオライト層序"が存在するだろう。マリアナ海溝陸側斜面には、ボニナイトマグマ由来の閃緑岩質深成岩も露出する(Jonson et al., 2014)。本研究の沈積岩類は、海底拡大環境でLSB質地殻と溶け残り岩の間に形成されたモホ遷移帯に由来する可能性がある。Ichiyama et al. (2021)は、海溝からマリアナ蛇紋岩海山の距離に従い、より深部の蛇紋岩化マントルが泥火山中の岩片として上昇していることを示した。海溝に最も近い蛇紋岩海山から沈積岩類が産出することは、蛇紋岩化が前弧モホ遷移帯に達している可能性を示唆する。