一般社団法人日本鉱物科学会2024年年会・総会

講演情報

口頭講演

R7:岩石・鉱物・鉱床 (資源地質学会 との共催 セッション)

2024年9月12日(木) 14:00 〜 17:30 ESホール (東山キャンパス)

座長:秋澤 紀克(東京大学大気海洋研究所)、越後 拓也(秋田大学)

岩石学,鉱物学,鉱床学,地球化学などの分野をはじめとして,地球・惑星物質科学全般にわたる岩石及び鉱物に関する研究発表を広く募集する。地球構成物質についての多様な研究成果の発表の場となることを期待する。

15:25 〜 15:40

[R7-06] 伊豆・小笠原・マリアナ前弧域のマントル加水作用とマグマ形成史

*山岡 璃音1、秋澤 紀克1、市山 祐司2、森下 知晃3、田村 明弘3、山下 浩之4、針金 由美子5、小原 泰彦6,7,8 (1. 東大院、2. 千葉大、3. 金沢大、4. 神奈川県立生命の星・地球博物館、5. 産総研、6. 海上保安庁海洋情報部、7. 海洋研究開発機構、8. 名古屋大)

キーワード:沈み込み帯、加水作用、前弧域マグマ生成過程、かんらん岩、角閃石

沈み込み帯は、海洋プレートが地球内部に沈み込むことで巨大地震や島弧火成活動が生じる、地球上で最も活動的なテクトニックセッティングである。また、沈み込み帯は汎地球規模の物質循環が進行する場でもあり、固体地球化学の進化に重要な役割を果たすため、沈み込み帯の物質的実態解明が望まれている。伊豆・小笠原・マリアナ前弧域に分布する蛇紋岩海山や海溝陸側斜面では、沈み込み帯のマントル由来物質を採取されており、沈み込み帯におけるマントルへの深部物質輸送を理解する上で格好の研究対象である。そこで本研究では、前弧域マントルの加水作用と沈み込み開始に伴うマグマ形成史を総合的に理解するために、伊豆・小笠原・マリアナ弧海溝陸側斜面に露出するマントルカンラン岩を用いて、岩石記載と地球化学的分析を実施した。本研究では、海洋研究開発機構が保有している伊豆・小笠原海溝、マリアナ海溝南部、ヤップ海溝の海溝陸側斜面から採取されたカンラン岩(53試料)と、2023年11月から12月に実施された白鳳丸航海(KH-23-9)において、マリアナ海溝南部の最深部であるChallenger Deepの東側(D01-D05)と西側(D09-D14)の海溝陸側斜面からドレッジによって採取されたカンラン岩(42試料)を用いた。3つの海溝(伊豆・小笠原海溝、マリアナ海溝南部、ヤップ海溝)から採取されたカンラン岩は、メルト成分に枯渇しており、様々な程度に蛇紋岩化したハルツバージャイトとダナイトであった。マリアナ海溝南部のカンラン岩は針状~繊維状の角閃石(パーガス閃石、エデン閃石、マグネシオホルンブレンド、トレモラ閃石、カミングトン閃石)に富む特徴が認められた。一方で、ヤップ海溝のカンラン岩は他の地域では見られない単斜輝石を含み、1試料を除いて角閃石を含まないことで特徴づけられた。全岩主要元素組成では、本研究のカンラン岩は一般的な海洋性カンラン岩よりもAl₂O₃に乏しく、より枯渇した性質を示す。加えて、KH-23-9で採取したChallenger deep西側で採取された試料は他の試料よりもCr₂O₃含有量が高く(1.03-2.47 wt.%)、TiO₂含有量(<0.01 wt.%)が低い特徴が認められた。カンラン岩に含まれるクロムスピネルの Cr#(=Cr/(Cr+Al)原子比)及びMg#(=Mg/(Mg+Fe)原子比)からOhara and Ishii (1998)の分類に従い、低いCr#と高いMg#を示すスピネル(Cr#=0.69,Mg#=0.52)を持つA-typeカンラン岩、高いCr#と低いMg#を示すスピネル(Cr#=0.57-0.86,Mg#=0.25-0.38)を持つH-typeカンラン岩、中間的な組成を示すスピネルを持つI-typeカンラン岩の3つのタイプに分類される。また、マリアナ海溝南部でCr#は最も高く(0.57-0.86)、ヤップ海溝で最も低かった(0.42-0.67)ことから、マリアナ海溝南部のカンラン岩が最もメルト成分に枯渇していることが示された。角閃石には累帯構造を示すものがあり、トレモラ閃石はカミングトン閃石に囲まれるように産していることから、温度冷却過程に伴って形成されたと考えられる。Al₂O₃ に富むCa角閃石(パーガス閃石、エデン閃石、マグネシオホルンブレンド)はアルカリ元素に富むことから、アルカリ元素に富む角閃石はより深部での形成が、その他の角閃石はより浅部での形成が示唆される。角閃石の微量元素組成は、全体的にBaやSrなどの流体移動元素に富むことから、全ての角閃石の形成には流体が関与していることが示唆される。さらに、角閃石の微量元素パターンが前弧噴出岩であるボニナイトの微量元素パターンと似ていることから、角閃石の形成に関与した流体はボニナイトを形成した流体と似た組成を持った流体であることが推察される。また、Fabries (1979)のカンラン石-スピネル温度計を用いたことで、カンラン石とスピネル間の平衡温度を求めた。その結果、マリアナ海溝南部の試料では、角閃石を含まず直方輝石を含むA-typeカンラン岩が最も温度が高く(757℃)、角閃石を豊富に含むH-typeカンラン岩が最も温度が低く(644-737℃)、A-typeからH-typeにかけての平衡温度の低下を示す。これは、マリアナ海溝南部のH-typeカンラン岩では流体との反応により、低い平衡温度で角閃石を形成したことを示唆している。ヤップ海溝のカンラン岩はマリアナ海溝南部のA-typeカンラン岩と似た高い平衡温度(736-798℃)を示した。この特徴は、ヤップ海溝のカンラン岩が単斜輝石や直方輝石に富み、肥沃な組成を示すことと整合的である。