16:30 〜 16:45
[R8-05] 岐阜県春日地域の帯状スカルン脈の形成と変質:U-Th酸化物のEPMA年代
キーワード:脈
地殻浅所に貫入定置した花崗岩体周囲の流体活動の継続期間を調べるため,白亜紀貝月山花崗岩の接触変成帯(岐阜県春日地域)から採取したドロマイト質大理石中の帯状スカルン脈について,岩石学的研究およびU-Th 酸化物の化学年代測定を実施した.ドロマイト質大理石は方解石とH2O-CO2流体を過剰相として1成分(Mg,Fe)O単純系とみなせるため,それと反応した流体の化学組成や交代作用を調べる目的に適している.本研究で記載する脈は幅4 cm程度で,母岩(ドロマイト + 方解石)から脈中央に向かって以下の鉱物組合せをもつ帯状構造が認めらる:
Zone 1 (母岩側から3つのsubzoneに区分:単斜ヒューム石 + 方解石 / 苦土かんらん石 + 方解石 / 透輝石 + 苦土かんらん石 + 方解石)
Zone 2 (クリントン雲母 + スピネル + Al に富む単斜輝石またはパーガス閃石 + 方解石)
Zone 3 (グロシュラー + 単斜輝石 + 灰長石 + 方解石)
Zone 2と3には,U, Th, REE, Zrに富むさまざまな副成分鉱物(緑れん石族鉱物,U-Th酸化物,バッデレイ石,ジルコノライト,ジルコンなど)が存在する.また,Zone 3のグロシュラーと灰長石は,後期鉱物 (単斜灰れん石またはぶどう石 + 白雲母) によって置換されている.
Zone 1 は明瞭なsubzone境界をもち,系成分としてSiO2を欠く母岩側からSiO2/(Mg,Fe)O比が単調上昇する変化から,母岩のドロマイト質大理石のクラックに流入した流体の溶存シリカの壁岩側への拡散に支配された交代反応脈と考えられる.同様な鉱物組合せの苦土かんらん石透輝石脈は周辺に普遍的にみられ,この交代反応が進行した後の流体はシリカに枯渇し,アルミナやアルカリ,不適合微量元素に富んでいったことが推定される.そのようなアルミナ成分に富む流体とZone 1の反応により,Zone 2の鉱物組合せを説明することができる(透輝石+苦土かんらん石+Al2O3 aq ⇒ クリントン雲母+スピネル+Alに富む単斜輝石).Zone 1と2の鉱物組合せは接触変成帯のピーク温度(~600℃)で安定であり,等温での継続的な流体-岩石反応とみなせる.Zone 2の方トリウム鉱のEPMA年代として97.0±1.1 Ma が得られ,これは貝月山花崗岩の全岩Rb-Sr年代(96.4 ± 4.8 Ma:沢田ほか1994)と一致する.
Zone 3 の初生鉱物は,付近にみられる塩基性交代岩中のザクロ石単斜輝石斜長石脈(鈴木1975)と類似する.塩基性交代岩を通過し,これら鉱物に過飽和となった流体が流入し,Zone 3の初生鉱物を脈中央に析出させたと考えられる.Zone 3の初生鉱物はピーク温度から450℃までの範囲で安定である.さらにZone 3はFeを含まない純粋な単斜灰れん石やぶどう石の形成を伴う低温熱水変質を被った.Zone 3の閃ウラン鉱のEPMA年代として88.1±0.8 Maが得られ,低温熱水変質の時期に対応すると考えられる.
貝月山花崗岩は定置年代(全岩Rb-Sr年代)と冷却年代(黒雲母K-Ar年代)に差がなく,ソリダス温度から黒雲母K-Ar系の閉鎖温度(300±50℃)までの急速な冷却史が示唆される(斎藤・沢田2000).その後の徐冷期に花崗岩体の周囲では低温の熱水活動が長期(9 Myr)にわたって継続した可能性がある.
文献
斎藤・沢田(2000)1/5万地質図幅「横山」説明書
沢田ほか(1994)地質雑99, 975-990
鈴木(1975)地質雑81,487-504.
Zone 1 (母岩側から3つのsubzoneに区分:単斜ヒューム石 + 方解石 / 苦土かんらん石 + 方解石 / 透輝石 + 苦土かんらん石 + 方解石)
Zone 2 (クリントン雲母 + スピネル + Al に富む単斜輝石またはパーガス閃石 + 方解石)
Zone 3 (グロシュラー + 単斜輝石 + 灰長石 + 方解石)
Zone 2と3には,U, Th, REE, Zrに富むさまざまな副成分鉱物(緑れん石族鉱物,U-Th酸化物,バッデレイ石,ジルコノライト,ジルコンなど)が存在する.また,Zone 3のグロシュラーと灰長石は,後期鉱物 (単斜灰れん石またはぶどう石 + 白雲母) によって置換されている.
Zone 1 は明瞭なsubzone境界をもち,系成分としてSiO2を欠く母岩側からSiO2/(Mg,Fe)O比が単調上昇する変化から,母岩のドロマイト質大理石のクラックに流入した流体の溶存シリカの壁岩側への拡散に支配された交代反応脈と考えられる.同様な鉱物組合せの苦土かんらん石透輝石脈は周辺に普遍的にみられ,この交代反応が進行した後の流体はシリカに枯渇し,アルミナやアルカリ,不適合微量元素に富んでいったことが推定される.そのようなアルミナ成分に富む流体とZone 1の反応により,Zone 2の鉱物組合せを説明することができる(透輝石+苦土かんらん石+Al2O3 aq ⇒ クリントン雲母+スピネル+Alに富む単斜輝石).Zone 1と2の鉱物組合せは接触変成帯のピーク温度(~600℃)で安定であり,等温での継続的な流体-岩石反応とみなせる.Zone 2の方トリウム鉱のEPMA年代として97.0±1.1 Ma が得られ,これは貝月山花崗岩の全岩Rb-Sr年代(96.4 ± 4.8 Ma:沢田ほか1994)と一致する.
Zone 3 の初生鉱物は,付近にみられる塩基性交代岩中のザクロ石単斜輝石斜長石脈(鈴木1975)と類似する.塩基性交代岩を通過し,これら鉱物に過飽和となった流体が流入し,Zone 3の初生鉱物を脈中央に析出させたと考えられる.Zone 3の初生鉱物はピーク温度から450℃までの範囲で安定である.さらにZone 3はFeを含まない純粋な単斜灰れん石やぶどう石の形成を伴う低温熱水変質を被った.Zone 3の閃ウラン鉱のEPMA年代として88.1±0.8 Maが得られ,低温熱水変質の時期に対応すると考えられる.
貝月山花崗岩は定置年代(全岩Rb-Sr年代)と冷却年代(黒雲母K-Ar年代)に差がなく,ソリダス温度から黒雲母K-Ar系の閉鎖温度(300±50℃)までの急速な冷却史が示唆される(斎藤・沢田2000).その後の徐冷期に花崗岩体の周囲では低温の熱水活動が長期(9 Myr)にわたって継続した可能性がある.
文献
斎藤・沢田(2000)1/5万地質図幅「横山」説明書
沢田ほか(1994)地質雑99, 975-990
鈴木(1975)地質雑81,487-504.