2024 Annual Meeting of Japan Association of Mineralogical Sciences (JAMS)

Presentation information

Oral presentation

S1: Dynamics of igneous processes (Special Session)

Thu. Sep 12, 2024 10:00 AM - 12:00 PM ES Hall (Higashiyama Campus)

Chairperson:Shumpei Yoshimura(Hokkaido University), Yuuki Hagiwara(Japan Agency for Marine-Earth Science and Technology), Morihisa Hamada(JAMSTEC)

10:20 AM - 10:40 AM

[S1-02] Reconstruction of mantle structures using mantle xenoliths from Nushan, SE-edge of Sino-Korean craton: How far does the subduction fluid reach?

「招待講演」

*Yuto SATO1, Eiichi Takahashi2 (1. JAMSTEC Kochi, 2. GIG)

Keywords:Mantle xenolith, Big mantle wedge, NAMs, Mantle petrology, FTIR

リソスフェア-アセノスフェア境界(LAB)はプレートテクトニクスにおける「プレートの底」であり、上部マントルに存在する粘性コントラストである。粘性コントラストの成因にはマントルに微量に含まれる水が密接に関係しており、(1)水がマントルカンラン岩の粘性を直接下げる、(2)粘性低下を引き起こす部分溶融の温度を下げる、という二方向の働きからLABの深度・温度・性質を劇的に変化させる。沈み込み帯は、海溝から沈み込んだ含水化スラブから放出された流体によりウェッジマントルが広範に含水化された場として重要である。しかし、この水が水平方向にどこまで広がっているかは自明ではない。
 我々はこれまで海溝に近い沈み込み帯の例として、秋田県男鹿半島一ノ目潟マールに産するマントル捕獲岩を用いて岩石学的にLABを復元し、沈み込み帯LABの成因が含水カンラン岩の部分溶融にあると明らかにした(Sato et al., 2023EPSL)。本発表では海溝から離れた大陸内側の例として、中国安徽省女山マールに産するマントル捕獲岩を用いて岩石学的マントル構造と含水量分布を復元する。また、結果を一ノ目潟のケースと比較することで、スラブ由来の水が沈み込み帯LABへ及ぼす影響がどこまで到達するかを評価する。女山マールはSino-Koreanクラトンの南東端に位置する。地震波高速異常域として示唆されるStagnant slabの西端上方にあり、Big mantle wedgeのほぼ端部に相当する。さらに、直下にはStagnant slabを迂回して深部から上昇するプルームの存在も認められる。
 女山産マントル捕獲岩は多様な岩石学的特徴を示す。鉱物モード組成と化学組成の間に相関が見られ、捕獲岩は以下の三グループに分けられる。①MORBマントル様のレルゾライト。稀にザクロ石または金雲母を含み、CPX中のNa2O含有量が1.5 wt.%前後でOLのMg#が89-90程度。②含水鉱物として角閃石と燐灰石を含む交代作用を受けたレルゾライト。CPX中のNa2O含有量が顕著に高く(>2wt.%)OLのMg#が低い(87-90)。③ハルツバージャイト。SPLのCr#が顕著に高く(17-48)OLのMg#が比較的高い(89-91)。
 Sato & Ozawa (2019AM)の平衡組成探索手法に則りCa-in-OL温度圧力計(Aoki et al., 2020)およびCa-in-OPX温度圧力計(Lindsley, 1983を改変)を用いて捕獲岩の由来深度を推定した。推定圧力は0.4-2.6 GPa、温度は830-1150 ℃と推定され、これはHuang et al. (2004)で推定されたグラニュライトとザクロ石カンラン岩の温度圧力推定値と整合的であった。得られた圧力を用いて図のような女山下のマントル構造を復元した。
● 上層は粗粒なプロトグラニュラー組織を示し、顕著に含水鉱物を含む。①MORB様マントルと②交代されたマントルが互層を成す。
● 下層は細粒なタビュラーグラニュラー組織とポーフィロクラスティック組織を呈し、①MORB様マントルで構成される。
● 最下層は細粒なタビュラーグラニュラー組織を呈し、③ハルツバージャイトから成る。
変形組織が発達し始める深さ約60kmがリソスフェアの底であることが期待されるが、このようなマントルの成層構造は、下層にて角閃石が無くなりメルトが生じて変形組織が発達する一ノ目潟のケースと類似する。
 FTIRを用いて分析した女山産捕獲岩のカンラン石に含まれる水は3571、3522、3229cm-1に主要なピークを示し、前二者がTi-clinohumiteに類似した欠陥(MgTiH2O4)に、後者がMgサイトの欠陥(MgH2SiO4)に帰属する。Fe3+に関連した欠陥に由来する3355、3327 cm-1のピークが存在しない点は一ノ目潟と異なっており、女山産捕獲岩の低い酸素フガシティー(ΔFMQ -0.6から-1.6)を反映すると考えられる。予察的な分析結果ではあるが、女山のカンラン石の含水量については深さ変化が認められるようであり、マントル上層では含水鉱物が含まれるにも関わらず2-4ppm、下層では十数ppm程度の水が含まれる。
 一ノ目潟と女山はそれぞれ類似したマントル構造を示す一方で、リソスフェアの底の深さは一ノ目潟が約40kmで、女山が約60kmと深くなる。また、一ノ目潟ではマントルが深部から浅部まで全体に含水化されており、LABを介した含水量コントラストは存在しないのに対して、女山では含水化が限定的である。今後は水の起源について、沈み込み由来であるかプルーム由来であるかを検討し、沈み込み帯の水の到達限界について評価したい。
S1-02