11:25 AM - 11:40 AM
[S1-06] MD simulation of silicate melt and glass under tension deformation
Keywords:silicate melt, MD simulation, tensional deformation, ring structure
爆発的な火山噴火は,火道内を上昇するマグマが脆性的に破壊することで発生する。マグマが脆性的に破壊するのは,珪酸塩メルトが粘弾性的性質を持っており,高速変形下においてメルトが固体的に振舞うためだと考えられている(e.g., Dingwell, 1996)。一方で,高速変形下では,変形速度の上昇に伴いメルト粘性が低下(シェアシニング)することも知られている (e.g., Simmons et al., 1982)。このように高速変形下の珪酸塩メルトは固体的な性質と液体的な性質を併せ持つことがわかっているが,それらの分子構造的な起源はよくわかってない。Okumura et al. (2023) は,X線回折を用いて引張変形中の珪酸塩メルトの構造変化を調べ,回折パターンのFSDP (First Sharp Diffraction Peak) の変化から変形に伴い中距離構造が変化していることを示した。珪酸塩メルトにおいて,FSDPに対応する中距離構造はSiO4四面体からなるリング構造だと考えられており,この実験により引張変形によってリング構造が変化する可能性が示されたことになる。さらに,この実験では粘性的変形下と弾性的変形下において中距離構造が異なる変化をすることを見出した。すなわち,試料スケールで粘性変形する場合,平均リングサイズは等方的に大きくなるのに対し,弾性変形する時,引張方向により強くリングが変形することが示された。これらの結果は,珪酸塩メルト中のリング構造の変化がシェアシニングを誘発し,さらなる変形によるリング破断がマクロな破壊と関係している可能性を提案する。この考えを検証するために,本研究では分子動力学(MD)シミュレーションを用いて,引張変形下におけるSiO2メルトのリング構造変化を調べ,リング構造変化がシェアシニングと破壊の起源となるのか明らかにすることを目指している。本発表では,MDシミュレーションにより再現された引張変形下のリング構造の変化について報告する。
本研究では,Bamer et al. (2019)で報告されているSiO2ガラスの引張変形シミュレーションを参考にした。Vashishta et al. (1990)で提案されているポテンシャルを用いて,引張変形と保持を繰り返すシミュレーションを行った。まず初めに10000 Kでアニーリングした後,300 Kまで9.0×1015 K/minで急冷した。この出発物質に対して,300 K,1000 K, 1500 K,2000 K,2500 K,3000 Kの温度条件において引張変形を行った。すべての実験において,歪み速度は0.001 ps-1とし,0.01の歪量ごとにRINGS(Roux and Jund, 2010)を用いてリングサイズ分布を調べた。また,温度と密度の関係から推定されたガラス転移温度は2023±370 Kであった。
引張変形前,1500 K以下の温度では,5・6員環のリングが全体のおおよそ60%を占めた。一方で,2000 K以上では,温度が増加するにつれて5・6員環の数が減少し,8員環など,より大きいリングが増加した。変形を進めると,1500 K以下の温度条件においては,5・6員環の系統的な減少及び8員環の系統的な増加が確認された。この結果は,常温での計算を行ったBamer et al. (2019)の結果とほぼ同じである。一方で,2000 K以上の温度条件における変形では,リングサイズ分布の系統的な変化が確認されなかった。つまり,ガラス転移温度付近以下のメルトおよびガラスでは,相対的に安定な5・6員環が支配的であり引張変形に伴い大きなリングが形成される一方で,高温ではより大きなリングサイズが安定であり,かつ変形によってリングサイズ分布は大きく変化しなかった。
実際のマグマを用いた引張試験では,高速変形下において構造緩和が遅れる,つまりガラス化することがシェアシニングと破壊の原因だと考えられてきた。また本研究では,ガラス転移温度付近においてリングサイズが変化することが見いだされた。このことは,構造緩和が遅れる条件においてリングサイズが変化することが,シェアシニングの起源である可能性を示唆する。今後,本研究で計算された構造を持つメルトの粘性係数を計算し,構造とシェアシニングの関係を明らかにしていく予定である。
本研究では,Bamer et al. (2019)で報告されているSiO2ガラスの引張変形シミュレーションを参考にした。Vashishta et al. (1990)で提案されているポテンシャルを用いて,引張変形と保持を繰り返すシミュレーションを行った。まず初めに10000 Kでアニーリングした後,300 Kまで9.0×1015 K/minで急冷した。この出発物質に対して,300 K,1000 K, 1500 K,2000 K,2500 K,3000 Kの温度条件において引張変形を行った。すべての実験において,歪み速度は0.001 ps-1とし,0.01の歪量ごとにRINGS(Roux and Jund, 2010)を用いてリングサイズ分布を調べた。また,温度と密度の関係から推定されたガラス転移温度は2023±370 Kであった。
引張変形前,1500 K以下の温度では,5・6員環のリングが全体のおおよそ60%を占めた。一方で,2000 K以上では,温度が増加するにつれて5・6員環の数が減少し,8員環など,より大きいリングが増加した。変形を進めると,1500 K以下の温度条件においては,5・6員環の系統的な減少及び8員環の系統的な増加が確認された。この結果は,常温での計算を行ったBamer et al. (2019)の結果とほぼ同じである。一方で,2000 K以上の温度条件における変形では,リングサイズ分布の系統的な変化が確認されなかった。つまり,ガラス転移温度付近以下のメルトおよびガラスでは,相対的に安定な5・6員環が支配的であり引張変形に伴い大きなリングが形成される一方で,高温ではより大きなリングサイズが安定であり,かつ変形によってリングサイズ分布は大きく変化しなかった。
実際のマグマを用いた引張試験では,高速変形下において構造緩和が遅れる,つまりガラス化することがシェアシニングと破壊の原因だと考えられてきた。また本研究では,ガラス転移温度付近においてリングサイズが変化することが見いだされた。このことは,構造緩和が遅れる条件においてリングサイズが変化することが,シェアシニングの起源である可能性を示唆する。今後,本研究で計算された構造を持つメルトの粘性係数を計算し,構造とシェアシニングの関係を明らかにしていく予定である。