2024 Annual Meeting of Japan Association of Mineralogical Sciences (JAMS)

Presentation information

Oral presentation

S1: Dynamics of igneous processes (Special Session)

Thu. Sep 12, 2024 10:00 AM - 12:00 PM ES Hall (Higashiyama Campus)

Chairperson:Shumpei Yoshimura(Hokkaido University), Yuuki Hagiwara(Japan Agency for Marine-Earth Science and Technology), Morihisa Hamada(JAMSTEC)

11:40 AM - 11:55 AM

[S1-07] The magma plumbing system of Izu-Oshima Volcano: Constraints from the H2O-saturated plagioclase liquidus

*Hidemi ISHIBASHI1 (1. Shizuoka University)

Keywords:Izu-Oshima volcano, Magma plumbing system, plagioclase, liquidus, pre-eruptive condition

伊豆大島は, 近1500年間に6.4×109トンものマグマを噴出している(津久井他, 2009),国内で最も活発な火山のひとつである.この火山の地下には深さ~3-5kmに浅部マグマだまり,~8-10kmに深部マグマだまりが存在することが地球物理学的研究から示唆されており,これはHamada et al. (2011)による斜長石斑晶の含水量測定の結果からも支持される.伊豆大島で噴出するマグマは,その岩石学的特徴から3つに大別される(浜田, 2016).このうち,ほぼ無斑晶質で化学的に均質(SiO2~53wt%)なGroup-1が最も主要なマグマであり,このマグマが深部マグマだまりに由来すると従来考えられてきた.しかし, Group-1マグマはそのプレ噴火温度 (1986年A噴火のマグマ~1100-1150℃;藤井他, 1988),H2O飽和の条件下では,深さ8₋10kmにおいて斜長石と共存できないことが高温高圧平衡実験 (Hamada et al., 2007)によって示されており,従来の解釈と矛盾がある.このため,伊豆大島のマグマ供給系を理解するためには,信頼性の高い方法でGroup-1マグマの貯蔵条件を制約する必要がある.ところで近年,伊豆大島1986年B噴火の玄武岩質安山岩を出発物質に用いた高圧平衡実験により,Putirka (2008)の斜長石リキダス温度計とNewman and Lowenstern (2002)のメルトH2O溶解度モデルの組み合わせ(本研究ではPNL法とよぶ)によって,H2O飽和条件下での斜長石リキダス(H2O-saturated plagioclase liquidus:HSPL)をうまく再現できることが示された(Oida et al., 2022).そこで本研究では,伊豆大島Group-1のマグマにPNL法を適用してHSPLを決定し,これらのマグマのプレ噴火圧力(深度)を制約した. PNL法を適用するうえで,伊豆大島のマグマが深さ~10kmより浅部でH2Oに飽和していること(Hamada et al., 2011)と,その温度が1100-1150℃ (藤井他, 1988) であることを仮定した.Group-1のうち,1986年A噴火スコリアの石基メルト(86Agm;石橋・種田,2018),1778年溶岩(78L;Sato, 1995),比較的未分化で高Al/SiのMA43と低Al/SiのMA44(Hamada et al., 2014)の4つの組成のメルトにPNL法を適用し,それぞれのHSPLを決定した.その結果,1100-1150℃で斜長石と共存できる圧力範囲は86Agmと78Lで2-42MPa,MA44で5-60MPa,MA43で60-160MPaと見積もられた.これらの値を深さに換算すると,86Agmと78Lで0.1-1.9km,MA44で0.2-2.6 km,MA43で2.6-6.5kmの値が得られた.このうち,MA43のプレ噴火深度は浅部マグマだまりの深さと一致する一方で,他の3試料のプレ噴火深度はより浅い.以上の結果から,Group-1マグマは深部マグマだまりから直接上昇・噴火するのではなく,浅部マグマだまりもしくはそれより浅部で一旦停滞し,斜長石を結晶分別していると考えられる.それでは,どのような化学組成のマグマであれば,深部マグマだまりで斜長石と共存できるのだろうか?これを明らかにするために,78Lに様々な量の斜長石(An92)成分を加えた化学組成のメルトについてHSPLを計算し,深さ8kmでの圧力~220MPaより高圧かつ1100℃より高温の条件で斜長石と共存できるメルトの組成条件を検討した.その結果,メルトに~18.5wt%以上のAl2O3が含まれる必要があることがわかった.このような組成のガラスは伊豆大島では未報告だが,三宅島ではアノーサイト巨晶と共存するガラスとして存在が確認されている(清野他, 2021).このような高Al2O3の含水マグマが減圧すると,脱水に伴ってリキダスが上昇するため,冷却せずとも斜長石を晶出できる.このことは,火道上昇過程の比較的短い時間でも斜長石に富むマグマを形成できる可能性を示唆する.伊豆大島のマグマのうち,斜長石斑晶に富むGroup-3(浜田, 2016)は,Group-1マグマが斜長石斑晶を取り込んだものと従来考えられてきた.しかし,その中には深部マグマだまり由来の高Al2O3メルトが斜長石を晶出するも,分別せずに噴出したものも含まれる可能性がある.今後,Group-3マグマに含まれる斜長石斑晶の成因について詳しい検討が必要である.