2024 Annual Meeting of Japan Association of Mineralogical Sciences (JAMS)

Presentation information

Oral presentation

S2: Water Rock Interaction (Special Session)

Fri. Sep 13, 2024 9:00 AM - 12:00 PM ES024 (Higashiyama Campus)

Chairperson:Noriyoshi Tsuchiya

9:35 AM - 9:50 AM

[S2-02] Geochemical diversity and significance of orthopyroxene pseudomorphs in ultramafic rocks derived from mantle wedges

「発表賞エントリー」

*Takumi Wani1, Yuji Ichiyama1, Akihiro Tamura2, Tomoaki Morishita2 (1. Chiba University, 2. Kanazawa University)

Keywords:mantle wedge, mantle metasomatism, slab fluid, orthopyroxene pseudomorph

マントルウェッジへのスラブ起源流体の浸透とそれによる交代作用によって形成される含水鉱物は,マントルウェッジ中の流体移動元素の固定に重要な役割を果たしていると考えられる.特に金雲母や角閃石のようなアルカリ元素を含む含水鉱物は,島弧マグマ組成の側方変化に関与するなど(Tatsumi, 1989),沈み込み帯における元素移動・元素循環を解明する上で重要な含水鉱物である.しかしながら,スラブ起源流体によって形成されたこれらの鉱物がどのように固定され,どのような地球化学的特徴を持つかは不明瞭である.本研究では,マントルウェッジを起源とする超苦鉄質岩の金雲母・角閃石を含む直方輝石仮像に着目し,H2O流体を媒介したスラブ-マントル間の元素移動について議論する. 関東山地の十石峠超苦鉄質岩体は,マントルウェッジを起源とし(Arai and Hisada, 1991),木呂子―名栗テクトニックメランジュに産する古生代前期の角閃岩とともに黒瀬川帯の構成要素とされる.十石峠の蛇紋岩化したハルツバージャイトには,金雲母+リヒター閃石+変成単斜輝石+変成かんらん石+アンチゴライト±モンチセリ石からなる直方輝石の仮像が確認される.CMSH系の相平衡下における鉄に富む変成かんらん石+変成単斜輝石+アンチゴライトの共生関係から,輝石仮像は500~600℃で後退変成作用時に形成されたことが推定される.全岩組成を用いたKNCMASH系のシュードセクションは、金雲母とリヒター閃石もこの温度で形成されたことを示唆する.木呂子―名栗テクトニックメランジュの角閃岩は,Ca角閃石のリムに高圧変成作用を示唆するNa-Ca角閃石が形成されるタイプ1と形成されないタイプ2に分類される.タイプ1角閃岩の全岩微量元素パターンは,Sr正異常とNb,Ta,Zr,Ti負異常を示し,島弧玄武岩に類似する一方,タイプ2角閃岩はMORBに類似する.したがって,十石峠の超苦鉄質岩と木呂子―名栗テクトニックメランジュのタイプ1とタイプ2角閃岩は,それぞれ前期古生代のマントルウェッジ,構造浸食により削剥された島弧地殻,沈み込む海洋地殻に相当すると推定される.輝石仮像の元素マッピングから計算した仮像の主要元素組成は,同岩体内の初生直方輝石と比較してK2O,Na2O,CaOで10~100倍,Cs,Rb,Baが100倍以上増加している.これらの元素は角閃岩相の変成岩の脱水によるスラブ起源流体によって付加されている可能性がある.十石峠超苦鉄質岩に類似した輝石仮像組織は,古生代の沈み込みオフィオライトである宮守オフィオライト,白亜紀の蛇紋岩メランジュである神居古潭帯,マリアナ前弧コニカル海山(Hole779Aと780C)のマントルウェッジを起源とする蛇紋岩化したハルツバージャイトからも確認される.輝石仮像の構成鉱物は,それぞれ単斜輝石+アンチゴライト,Na-Ca角閃石+変成単斜輝石+変成かんらん石+アンチゴライト±金雲母,Na-Ca角閃石+Ca角閃石+タルク+アンチゴライト(779A),Na-Ca角閃石+Ca角閃石+単斜輝石+アンチゴライト(780C)である.鉱物組み合わせから,神居古潭帯の仮像は十石峠と同様の温度での形成が考えられるが,宮守オフィオライトの仮像は,単斜輝石+アンチゴライトの共存から450-500℃以下で形成されたと推定される.また,コニカル海山の試料はタルク,単斜輝石の有無から,779Aで780Cよりも高い温度が推定される.これらの仮像の初生直方輝石に対する元素収支を見積った結果,十石峠に比べて宮守オフィオライトではK₂OとNa₂Oの流入量が小さく,CaOの流入量が大きい一方,神居古潭帯とマリアナ蛇紋岩海山ではCaOとK₂Oの流入が低くNa2Oの流入量が大きい.仮像の微量元素組成は,単斜輝石が多く形成される宮守オフィオライトの仮像でSrに富み, Na-Ca角閃石の多いコニカル海山779Aの仮像は,Na-Ca角閃石の乏しい780Cの仮像と比較してCsとRbで約10倍富む.超苦鉄質岩に伴うスラブ由来の変成岩の変成相は,黒瀬川帯や宮守オフィオライトで緑簾石角閃岩相~角閃岩相,神居古潭帯やコニカル海山で青色片岩相であり,沈み込むスラブの温度勾配の違いに起因する脱水鉱物の相違が推測される.黒瀬川帯や宮守オフィオライトは角閃岩のホルンブレンドの脱水によるCa富む流体が,神居古潭帯やマリアナ蛇紋岩海山は青色片岩のNa角閃石やパラゴナイトの脱水によりNaに富んだ流体が流入し,輝石仮像組成に影響した可能性がある.また, 黒瀬川帯の仮像の高いK2O量は変堆積岩起源流体の影響が大きいと考えられる.輝石仮像を構成する鉱物の形成とそれによる流体移動元素の固定には,流入する流体組成と温度が重要であると考えられる.