一般社団法人日本鉱物科学会2024年年会・総会

講演情報

口頭講演

S3:マントル・地殻のレオロジーと物質移動(スペシャルセッション)

2024年9月12日(木) 15:30 〜 18:00 ES025 (東山キャンパス)

座長:片山 郁夫(広島大学)、道林 克禎(名古屋大学)

17:10 〜 17:25

[S3-07] オマーンオフィオライト最上部マントル連続構造の復元

*奥脇 健生1、夏目 樹2、道林 克禎1 (1. 名古屋大・院環境、2. 神奈川県立 生命の星・地球博物館)

キーワード:マントル流動、オマーンオフィオライト、カンラン岩、面構造、結晶方位定向配列

オマーンオフィオライトは海洋リソスフェアの巨大断片であり、最上部マントル構造を理解する上で格好の研究対象である[1]。マントルセクションのカンラン岩中にはマントルアセノスフェア時の変形履歴が残されており、構造学的解析から、活発なマントル上昇流による強いマントル水平流を経験したと考えられている[2][3]。一方で、露頭間の連続的なサンプリングは困難であり、構造学的な連続性は不明瞭であるという課題がある。

オマーン掘削プロジェクト(OmanDP)では、オマーンオフィオライトの複数地点で300~400mの連続コアが掘削された[4]。本研究では、最上部マントル領域に相当するBA3A円柱状コアを使用し、経験した剪断センスおよびマントル流動の連続的構造の復元を行った。はじめに、試料ごとにコア半割面とそれに直交する面の二面で研磨薄片を作成した。ここでは半割面の短辺方向をX₀軸、長辺方向(鉛直方向)をZ₀軸、法線方向をY₀軸とする直交座標系を設定した。その後、両面における輝石粒子の平均方位を測定し、それらの外積を計算することによりカンラン岩の面構造の法線方位(Vf)を取得した。

次に、SEM-EBSD法によりカンラン石の結晶方位定向配列(CPO)を取得した。本研究の円柱状コア試料は、掘削時に水平回転していることと研磨薄片が任意の面で作成されていることから、各試料間の方位が一定ではなく、X₀Y₀Z₀軸は構造岩石学で定義されるXYZ軸と斜交する。そこで、構造岩石学的解析を行うため、BA3A掘削地点では経験した剪断方向が一定で、初期の構造を保持しているという仮定を置き、取得データの回転補正を行った。ここで、単純剪断を受けた最上部マントルではカンラン石a[100]軸すべりが卓越すること[5]を踏まえて、カンラン石a[100]軸の最大集中方位(max100)が剪断方向と一致すると考え、max100が一定方位に位置するまで、取得データをZ₀軸を回転軸として水平回転するMATLABスクリプトを開発した。面構造とCPOの回転補正後、すべり軸方向(max100)のプランジ角や、面構造とmax100の斜交角について鉛直プロファイルを作成し、剪断方向や剪断センスの変化について議論した。

結果として、max100のプランジ角がモホ面の伏角よりも小さいことから、BA3A掘削地点では剪断の主方向がマントル水平流の方向と斜交する可能性が高い。また、マントル対流内の相対速度に起因する単純剪断は、右横ずれセンスと左横ずれセンスを交互に示し、マントル対流内の速度に複数の極大域が存在することが示唆された。

References
[1] Nicolas, 1989, The Netherlands: Kluwer Academic Publishers.
[2] Nicolas et al, 1988, Marine Geophysical Researches, 9(4), 293–310.
[3] Michibayashi et al, 2000, Marine Geophysical Researches, 21(3-4), 259–268.
[4] Kelemen et al., 2020, Proceedings of the Oman Drilling Project.
[5]Karato et al., 2008, Annual Review of Earth and Planetary Sciences, 36, 59-95.