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[S3-13] アウターライズ断層での海水の浸透によるマントル炭酸塩化の可能性
キーワード:炭素循環、炭酸塩化、マントル
近年の地球物理観測によって海溝付近のプレートが折れ曲がるアウターライズ断層沿いに,海水がマントルまで浸透している証拠が数多く報告されている。オマーンなどのオフィオライト岩体では,炭酸水とカンラン岩による交代作用が広く確認されていることから,マントルにまで海水が浸透するのであれば,プレート内では蛇紋岩化に加え炭酸塩化も起きている可能性が高い。一方で,マントルの蛇紋岩化と炭酸塩化はどちらも地震波速度を低下させる方向に働くため,地震波速度だけからマントルでの炭酸塩の割合や進行度を推定することは難しい。そこで本研究では,熱力学計算を導入することで,マントル中の炭酸塩化を評価する手法を開発し,それを海洋マントルでの地震波速度の低下に適用することで,マントル中の炭酸塩化を評価した。熱力学計算では,温度100℃および圧力200MPaの条件で,炭素が溶け込む海水とカンラン石の平衡関係から,水岩石比を変化させた際の安定な鉱物相の割合を計算した。水岩石比が低い場合は,蛇紋石やブルーサイトが安定であるのに対し,水岩石比が高くなるとマグネサイトが晶出し,その割合が増える傾向にある。固相の地震波速度は既知であるため,それらの鉱物の組み合わせから岩石の地震波速度を計算した。マグネサイトは蛇紋石より地震波速度が速いため,水岩石比が増えると地震波速度はやや速くなる傾向にある。鉱物の量比は水岩石比によるため,地震波速度の観測結果から炭酸塩の量を見積もるには,水岩石比を制約する必要がある。そこで本研究では,断層沿いに流体が通過しながら炭酸塩化が起きることを想定し,比較的高い水岩石比(W/R=500)を仮定し,マントルでの速度低下から炭酸塩の割合を推定した。その結果,最上部マントルの地震波速度から,マントルは20%ほど蛇紋岩化しており,それと同時に1%ほどの炭酸塩化が起きていることが予想される。なお,その際の岩石中の炭素重量は400ppm程度である。この手法を世界中のアウターライズ領域の地震波速度構造に適用すると,マントルでの炭素フラックスは15Mt/yrとなり,海洋地殻による炭素フラックスにほぼ匹敵する。しかし,今回の見積もりは水岩石比を仮定しているため大きな誤差を含み,そのあたりをどう評価すればいいのかが今後の課題である。