第65回歯科基礎医学会学術大会

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シンポジウム

歯科イノベーションロードマップシンポジウム

「健康長寿社会を目指す口腔機能低下の予防と回復法の確立― 老化の基礎的理解と咀嚼・嚥下の制御メカニズム ―」

2023年9月18日(月) 08:30 〜 10:30 A会場 (百周年講堂(本館7F))

座長:井上 富雄(京都光華女短大 ライフデザイン)、井上 誠(新潟大 院医歯 摂食嚥下リハビリ)

09:48 〜 10:13

[IRS-04] 転写調節因子Phox2bを発現するニューロンは咀嚼様顎運動の誘発と咀嚼に伴う唾液分泌に関わる可能性がある

〇井上 富雄1、中山 希世美2、望月 文子2、壇辻 昌典2、中村 史朗2 (1. 京都光華女短大 ライフデザイン、2. 昭大 歯 口腔生理)

キーワード:咀嚼、唾液分泌、Phox2b

自律神経中枢の発生に関わる転写調節因子Phox2bを発現するニューロンは、延髄孤束核、三叉神経上核、小細胞性網様体/中間網様核などに多数存在する。私たちは、これらの領域のPhox2b陽性ニューロンは軸索を三叉神経運動核に送り、顎運動の調節に関わる可能性を示してきた。顔面神経核の腹側に存在するPhox2b陽性ニューロンは呼吸のリズム形成に関わることが知られていることから、Phox2b陽性ニューロンが咀嚼様顎運動のリズム形成に関わるかを調べた。Phox2b陽性ニューロンに光感受性タンパク質のチャネルロドプシンが発現する遺伝子改変ラットを用い、延髄孤束核に光照射を行うと、開口筋(顎二腹筋)に4-6 Hzのリズミカルな筋活動が現れたが、閉口筋(咬筋)にはわずかな活動が見られるのみであった。また三叉神経上核への光照射では、位相が同期した8-10 Hzのリズミカル筋活動が開口筋と閉口筋で誘発された。一方、小細胞性網様体/中間網様核への光照射では、開口筋と閉口筋の両方に4-6 Hzの筋活動が誘発されたが、筋活動の位相はずれていた。
 脳幹のPhox2b陽性ニューロンは興奮性ニューロンであるため、Phox2b陽性ニューロンが上唾液核ニューロン(唾液腺を支配する節前ニューロン)を興奮させる可能性がある。そこで上と同様の遺伝子改変ラットの脳幹スライス標本を用いて、Phox2b陽性ニューロンが唾液分泌に関わるかを調べた。小細胞性網様体/中間網様核に光を照射すると、上唾液核ニューロンに興奮性のシナプス後電流(EPSC)が発生した。以上の結果から、Phox2b陽性ニューロンはリズミカルな咀嚼様顎運動の誘発に関わり、存在部位によって顎運動誘発に対する影響が異なる可能性がある。さらにPhox2b陽性ニューロンは、咀嚼に伴う大量の唾液分泌にも関わる可能性がある。