[P1-2-37] 唾液腺再生にむけた筋上皮細胞の機能解析
キーワード:唾液腺、筋上皮細胞、FoxO1
頭頚部癌の放射線治療などに起因する重篤な唾液分泌低下は誤嚥性肺炎などのリスク因子となり著しいQOLの低下を招く可能性がある。唾液腺の組織再生には、自己のiPS細胞から誘導した唾液腺細胞を用いた細胞治療が期待される一方で、薬剤投与による腺組織再生能の活性化は非観血的な治療法として期待される。唾液腺実質は、導管細胞、腺房細胞、筋上皮細胞から構成され、各々の細胞が自己複製能を有するとの報告もなされている。今回、我々は、筋上皮細胞の多分化能に着目し、その機能解析を目的とした。 成獣マウスの顎下腺からflow cytometryを用いて筋上皮細胞を分取し、RNA sequence法により網羅的に遺伝子発現を解析した。筋上皮細胞特異的な発現を示した転写因子のうちFoxO1は胎生16日齢および生後8週齢いずれにおいても免疫組織学的に筋上皮細胞の核に強く発現していた。そこで、Tet-on システムを用いたFoxO1発現誘導株を作製し、FoxO1強制発現下で誘導される発現遺伝子を網羅的に解析したところ、細胞周期抑制因子p21/p27の遺伝子発現が低下したが、導管形成に関与するEctodysplasin A1(Eda)の遺伝子発現が上昇した。さらに、クロマチン免疫沈降法によりFoxO1遺伝子近傍におけるp21/p27との結合が確認された。一方で、唾液腺原基の器官培養により、FoxO1はNFkBの活性化を介してEdaの発現と唾液腺形成を制御した。FoxO1に誘導されたEdaは外胚葉異形成症の原因遺伝子であり、その欠損は毛髪、歯牙、汗腺の形成不全と唾液分泌の低下をもたらす。本研究結果から、FoxO1が筋上皮細胞の恒常性維持と唾液腺発生に関与する重要な転写因子であることが示唆された。今後、FoxO1やそのターゲット因子を標的とした唾液腺再生治療法へ応用が期待される。