第65回歯科基礎医学会学術大会

講演情報

シンポジウム

アップデートシンポジウム11

「哺乳類の歯や嚥下を考える:比較解剖学と動物歯科学の接点と発展」

2023年9月18日(月) 13:00 〜 14:30 B会場 (123講義室(本館2F))

座長:島津 德人(麻布大 生命・環境科学 食品生命)、田畑 純(医科歯科大 院医歯 分子発生・口腔組織)

13:00 〜 13:22

[US11-01] 赤ちゃんの口と乳食の進化:比較形態学の視点から

〇田畑 純1 (1. 医科歯科大 院医歯 分子発生・口腔組織)

キーワード:赤ちゃん、乳食、進化

哺乳類はさまざまな食性を持つ動物群であるため、その口や歯は多様性に富む。例えば、肉食動物であれば、鋭い歯が並び、大きく開く顎関節を持ち、強い咬筋と側頭筋を持つ。草食動物であれば、大きな臼歯が並び、前後または左右に大きく摺動できる顎関節を持ち、発達した内側・外側翼突筋を持つ。しかし、哺乳類の赤ちゃんでは、こうした特徴がほとんど見られない。歯が無いし、口は大きく開かないし、筋も未発達で咀嚼などできない。いかにも未熟に見える。
 だが、哺乳類の赤ちゃんの口は母乳を飲むための最適なかたちをしている。例えば、イヌやネコでは成獣になるにつれて、口が大きく裂けてきて、母乳を上手に飲むことができなくなる。飲もうとしても、横から乳汁がもれてしまうし、歯があるので、乳首をやさしく噛むこともできない。乳首に唇を密着できないので、空気が漏れてしまって、乳汁を吸飲することもむずかしい。舌の動きにしても、頬のかたちにしても、呼吸をしながら母乳を飲むという芸当にしても、赤ちゃんの口の方が母乳を飲むには優れているのである。
 今回は、さまざまな事例をあげながら、赤ちゃんの口の機能性について考察する。未熟に見える赤ちゃんの口が「乳食」のために進化してきた構造であり、高い機能性をもった器官であることがわかるはずである。