第65回歯科基礎医学会学術大会

講演情報

シンポジウム

アップデートシンポジウム7

「歯学基礎領域から発信する多角的アプローチからのがん研究最前線」

2023年9月17日(日) 16:00 〜 17:30 B会場 (123講義室(本館2F))

座長:樋田 京子(北大 院歯 血管生物分子病理)、工藤 保誠(徳大 院医歯薬 口腔生命)

16:00 〜 16:15

[US7-01] 腫瘍血管内皮細胞によるがん転移促進

〇樋田 京子1 (1. 北大 院歯 血管生物分子病理)

キーワード:腫瘍、血管、転移

近年,血管内皮細胞には形態や遺伝子変化など多様性があることが明らかにされている.たとえば,腫瘍を養い転移の経路を担う腫瘍血管の内皮細胞は不均一な集団であり腫瘍の微小環境因子によって様々な形質を示すことが明らかにされている.我々も悪性度の異なる腫瘍における血管内皮細胞の性質が異なることを示してきた.われわれはこれまで,低酸素刺激やがん細胞由来のサイトカイン,細胞外小胞などがんの微小環境の違いにより腫瘍血管内皮細胞に多様性がもたらされることや,がん治療による微小環境の変化により腫瘍血管内皮細胞の形質が変化することを報告している.高転移性の腫瘍血管内皮細胞は低転移性の腫瘍血管内皮細胞に比べ薬剤耐性,染色体異常,血管新生能などがいずれも高度にみられる.さらに血管内皮細胞はアンジオクラインファクターにより周囲がん細胞や周囲細胞の表現型を変化させ微小環境を制御することもある.がんの線維化や骨髄由来免疫抑制細胞や免疫細胞も血管内皮細胞によって制御されている.こうした腫瘍血管内皮細胞の異常性はがん微小環境の炎症性変化によって誘導されることがある.たとえば抗がん剤治療によるがんの炎症性変化は血管内皮細胞の薬剤排出トランスポーターABCB1の発現を誘導する.また,最近我々は血中移行した口腔常在菌S.mutansによる遠隔臓器の血管炎症によりがんの転移が促進されることを報告した.原発巣における血管炎は好中球活性化とがん免疫の抑制の原因にもなる.このように血管の多様性と形質変化は腫瘍の進展に深く関与している.