第65回歯科基礎医学会学術大会

講演情報

シンポジウム

アップデートシンポジウム9

「遺体安置所にて歯科医師に求められるご遺体対応~東日本大震災から12年が経過して~」

2023年9月18日(月) 08:30 〜 10:00 B会場 (123講義室(本館2F))

座長:斉藤 久子(医科歯科大 院医歯 法歯)、佐藤 慶太(鶴大 公共医科学研究セ)

09:10 〜 09:30

[US9-03] エンバーミング(遺体衛生保全処置)によるご遺族へのグリーフケア効果

〇斉藤 久子1 (1. 医科歯科大 院医歯 法歯)

キーワード:エンバーミング、遺体衛生保全、グリーフケア

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が全世界に蔓延し,2023年5月時点での死亡者数は日本では約7万人以上,世界では約690万人以上である. 2020年7月に厚生労働省・経済産業省より「新型コロナウイルス感染症により亡くなられた方及びその疑いがある方の処置,搬送,葬儀,火葬等に関するガイドライン」が公表され,厚生労働省の「診療の手引き」では,「適切な感染対策を行えば,遺族らが病室で故人との別れの時間を設けることは可能」とされていた.しかし,実際には,ご遺族は故人と対面でのお別れや葬儀を実施できておらず,2023年1月に厚生労働省・経済産業省のガイドラインが改訂され,COVID-19関連の遺体の葬儀は対面式で実施されるようになった.
 その後の研究により,COVID-19関連死の遺体の鼻咽頭及び肺には感染性ウイルスが残存することが判明したが,遺体における新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)は遺体衛生保全処置(エンバーミング:EM)によりSARS-CoV-2の抗原検査及びPCR検査は陰性になることが判明した.また、EMを受けた遺体のご遺族は,対面での葬儀が可能となり,故人と納得のいくお別れをすることがご遺族や友人の方々にとってのグリーフケアにつながった.
 COVID-19関連死の遺体のEMには,感染拡大防止という公衆衛生上の目的だけでなく,ご遺族へグリーフケア効果をもたらすことが実証された.ご遺族へのグリーフケアのサポート体制は,今後発生しうる新興感染症対策のためだけではなく,大規模災害の災害対応においても重要課題の一つであり,国内におけるEM実施体制をどのように展開していくべきか,についてよく検討し,早急に構築することが望ましいと考える.