一般社団法人日本学校保健学会第67回学術大会

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教育講演2
食物アレルギーから子どもたちを守る

─安全な給食提供と,学校現場の安全管理について─

2021年11月7日(日) 10:30 〜 11:25 LIVE配信第1会場

座長:都築一夫(名古屋学芸大学ヒューマンケア学部教授)

10:30 〜 11:25

[EL2] 食物アレルギーから子どもたちを守る

安全な給食提供と、学校現場の安全管理について

講師:伊藤浩明 (あいち小児保健医療総合センター センター長)

〈プロフィール〉
1986年名古屋大学医学部卒業.名古屋大学大学院,テキサス大学留学などを経て,2001年よりあいち小児保健医療総合センターアレルギー科医長.2020年より現職.藤田医科大学客員教授,名古屋大学大学院連携教授,日本アレルギー学会理事,日本小児アレルギー学会理事などを務め,食物アレルギー診療ガイドラインの作成などに携わっている.認定NPO法人アレルギー支援ネットワーク副理事長も務めている.

キーワード:食物アレルギー アナフィラキシー 学校生活管理指導表

はじめに
 食物アレルギーとは,体の中でIgE抗体という免疫学的機序が働いて,特定の食べ物に対して体に過敏反応が生じる疾患である.症状は,皮膚の赤みやじんま疹,咳や息苦しさ,腹痛や嘔吐など各臓器に及ぶ.複数の臓器に急激に強い症状が誘発されることをアナフィラキシーと言い,そこに血圧や意識レベルの低下を伴う場合をアナフィラキシーショックという.学童では,約4 〜 5%の子どもが食物アレルギーを持ち,約0.5%がアナフィラキシーに備えたアドレナリン自己注射薬(エピペン®)を処方されている.

アレルギーの原因食物と注意すべき病態
 アレルギーの原因食物としては鶏卵と牛乳が多いが,乳幼児期から軽いアレルギーであった子どもは,入学までに治っているか,ある程度の量(鶏卵1/4個,牛乳30ml程度など)までは食べられる状態になっていることが多い.従って,入学時点でもわずかな量で症状が誘発される子どもは,もともと重症で,リスクが大きいと考えられる.近年,落花生や木の実類(クルミ,カシューナッツ)でアナフィラキシーを起こす子どもが急増しており,給食で生まれて初めて摂取して症状を起こす事例もある.学年が上がると,花粉症に伴って発症する果物アレルギーが増加するが,その多くは摂取時に口の中で症状を感じる口腔アレルギー症候群(OAS)のタイプである.
 食後の運動は,アレルギー症状を誘発するリスク因子となる.摂取後の運動時に限って症状がおきる食物依存性運動誘発アナフィラキシー(FDEIA)は,学校での活動中に初めて発症することもある.また,牛乳や小麦のアレルギーがほぼ治ってきた過程の中で,摂取後の運動に伴う誘発症状だけ残している場合もある.

子どもの状態を把握すること
 子どものアレルギーに関する診断情報は,主治医が記入する学校生活管理指導表で確認することが原則である.しかし,そこに詳しい情報が具体的に書かれているとは限らず,保護者から日常的な摂取状況と症状誘発の経験を直接聞き出すことが,最も正しい情報となる.最近では,原因食物であっても家庭内で計画的に「食べる」指導を受けている子どもも多い.原因食物を完全に避けているのか,どの程度の量まで症状なく食べているのかが,話を聞き出すポイントとなる.

給食の献立と提供の流れを知ること
 給食の献立や原材料の管理方針,調理から配膳までの過程,除去食・代替食を提供する方針などは,地域によってそれぞれ異なっている.養護教諭・栄養教諭は,そのシステムをよく把握して,一般教諭の理解を促す役割を担っている.重大な事故の原因は,完全な誤配膳(おかわりを含む)が多い.誤配膳を防ぐためには,クラスの子どもたちの理解と協力も必要であり,それは「思いやり」「助け合い」といった気持ちを育む食育の一環として,教育的な配慮の中で行われることが望ましい.

緊急時の対応
 緊急時の対応は,アドレナリン自己注射薬を適切なタイミングで使用することに集約される.その必要性を見極めつつ,「迷ったら打つ」という原則を予め確認しておくことが望ましい.多少のフライングがあったとしても,打った判断は賞賛され,打たなかった責任は追及される傾向にある.