The 68th Annual Meeting of the Japanese Association of School Health

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シンポジウム4
アジア諸国の学校保健 カンボジアとマレーシアにおける実状・政策と課題

座長:照屋 博行(国際交流委員会)、大沼 久美子(女子栄養大学)、佐々木 司(東京大学)

[SY4-1] カンボジア王国の学校保健の現状と政策および国際支援の課題 日本型学校保健室体制のエクスポート

清水 裕子 (香川大学医学部)

Keywords:カンボジア、日本型学校保健室、国際支援

はじめに
 カンボジア王国は、インドシナ半島の中央に位置し、人々はクメール語を話し、仏教国である。近年は、ポル・ポトとクメール・ルージュによるジェノサイドが鎖国下で行われたことで知られており、1979年の独立に至るまで、内戦による貧困や凡書政策の影響などにより学校教育も国民の衛生的生活も立ち遅れた。1991年パリ和平合意から経済が発展し、2016年には低中所得国入りを果たした。

日本のカンボジアへの開発援助課題
 日本の政府開発援助ODAの方針は、2030年までのカンボジアの高中所得国入りの実現に向けて経済社会基盤のさらなる強化を支援することで、重点分野は産業振興支援、生活の質向上、ガバナンス強化である。事業展開計画には、「保健医療・社会保障の充実」が挙げられ、特にユニバーサルヘルスカバレッジUHCの実現に向け、保健人材育成や保健システムの強化に取り組むこととされている。

カンボジアの学校保健の現状
 発表者は、事業開始前の2016年にJICA青年協力隊として視察し、また、首都から車で約1時間のカンダール州で学校調査を行った。カンボジアは、首都と地方の公共交通でのアクセスが困難であり、殆どは自動車で悪路を走破する手段のみである。調査地区では32小学校に手洗い場は3か所のみ、トイレは3-400名に1個もしくはトイレがない状況であった。よって児童の学習は午前のみである。朝食を抜くことも多く、栄養不足がユニセフから指摘されている。

香川大学の日本型学校保健室体制の技術移転
 香川大学は2017年2月から2020年2月まで、二国間契約の下で日本の学校保健室体制の技術移転を行った。首都にも行ったことのない地方の教員と政府高官・職員の来日研修を実施し、その後、現地定住スタッフによるフォローアップ、香川大学の専門家の渡航による現地研修を実施し、保健室担当教員が配置された学校保健室モデルを首都郊外の学校に開設した。またカンボジア初の学校保健テキストの開発、トイレ・手洗い場モデルの建設、衛生教育スキームの技術移転を行った。

カンボジア型学校保健室での学校健康診断モデル事業
 カンボジアの児童は、肥満と栄養不良がユニセフなどから指摘され、日系の公益財団法人国際開発救援財団FIDRなどが影響改善の支援を行っている。しかし、未だ子供の全国的な標準指標は出されておらず、定量的な体格評価が遅れている。そこで、カンボジア保健省、教育青年スポーツ省、国立健康科学大学医学部、歯学部、看護学科、カンダール州医務局、教育局、カンダルスタン郡教育事務所などと連携して、学校歯科・内科健康診断を実施した。

カンボジアの保健教員の養成と学校保健政策の改訂と課題
 カンボジアの教員養成課程は2年制であったが、日本のODAにより4年制大学が2校開学し、2022年には最初の卒業生が輩出され、保健担当教員が養成される。また、学校保健政策は2016年に制定され、2019年に改訂された。改訂版には日本型学校保健室が「多目的室」として政策に盛り込まれた。2019年9月には、幼稚園から大学まで、すべての学校に「学校保健室」を設置するよう大臣通達がなされ、香川大学が無償譲渡した学校保健室体制のコンテンツが活用された。
 今後は、カンボジア型学校保健室の機能強化と質保証が課題である。