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[O-1-2] ヒト血管内皮細胞における放射線照射誘発性eNOS活性化機構
キーワード:Radiation, Endothelial cell
血管内皮細胞は放射線感受性が比較的高いことが知られており,高線量照射の場合,機能的障害に加え細胞形態変化を著明に認める。本研究はヒト臍帯静脈内皮細胞を用い,重要な生理学的役割を担っている血管内皮型NO合成酵素(eNOS)のシグナリングが,放射線照射に曝露された内皮細胞で,いかに変化するかを検討した。X線照射(1-20 Gy)後,6-72時間で,eNOS発現量は変化がないが,Ser-1177部位でのeNOSリン酸化は増加し,Thr-495部位でのeNOS脱リン酸化は亢進した。結果的に[3H]-L-arginineから[3H]-L-citrullineの変換でみたeNOS活性は亢進し,NO代謝産物の増加を認めた。内皮細胞のeNOS調節因子であるAktのリン酸化は減少していることから,照射によるeNOS活性化は,上流のAktの変化に起因しない。内皮細胞に存在する多くのプロテインキナーゼC(PKC)サブタイプの発現量は,PKC-βIIのみ発現増加していた。そこで,PKC-β siRNAを作成し,その発現を抑制すると,照射で認めたSer-1177部位でのeNOSリン酸化,Thr-495部位でのeNOS脱リン酸化,NO代謝産物の増加は全て消失した。また,照射により活性酸素種(ROS)産生量は増加したため,ROS inhibitorを用いると,NO産生量は抑制したが,PKC-βIIの発現には影響を与えなかった。すなわち血管内皮細胞への照射は,急性期にPKC-βII発現増加とROS産生の経路を介してeNOSを活性化,NOを産生し,血管拡張性に作用すると考えられる。この内皮細胞における放射線照射性eNOS活性化機構は,早期の放射性皮膚障害である急性反応炎症としての発赤,紅斑の病態メカニズムや,バルーン血管形成術後の再狭窄を予防するとされた冠動脈放射線療法の理由を説明する可能性がある。