[口演48-3] A病院に入院した高齢患者のせん妄発症要因
ニーチャムによるせん妄発症因子の特徴
【緒言】せん妄は入院中の高齢患者に高率に発症する一過性の意識障害であり、転倒転落やライン類の抜去等に結びつきやすいだけでなく、リハビリテーションや退院調整が困難となる場合がある。急性期における高齢患者のせん妄発症要因や介入に着目した先行研究は報告されている。しかし、急性期治療を終えた高齢患者のせん妄に関する研究はなく、慢性期の入院患者のせん妄発症要因を明らかにしたいと考えた。【目的】急性期治療を終え、リハビリテーションや退院調整目的で入院した認知機能低下のある高齢患者のせん妄発症要因を明らかにする。【方法】急性期治療を終えて入院した70歳以上で認知症高齢者の日常生活自立度Ⅲ以上の患者52名に対し、日本語版ニーチャム混乱/錯乱スケール(以下ニーチャムと略す)を用い、退院まで日勤・夜勤の1日2回せん妄の有無を評価した。ニーチャムで24点以下となった対象者は事例毎に認知症看護認定看護師とせん妄発症要因を検討した。次に、せん妄の3因子をもとに事例毎にせん妄発症因子を抽出し、先行研究のせん妄発症要因や時期と比較した。調査期間は202X年12月からの3カ月間である。倫理的配慮は、A病院看護研究倫理委員会の承認を得た(承認番号第22-4号)。対象者には個人が特定されないよう匿名性や情報管理の厳守、学術集会で症例報告として発表することを書面で説明し、同意書をもって同意を得た。【結果】対象となった52名のうち、今回はせん妄を発症した21名を分析した。せん妄発症要因として、準備因子は高齢・認知症の他に脳血管障害やせん妄の既往があった。促進因子は便秘や下痢等の排便障害62%、環境変化が52%、チューブドレーン類48%、行動制限33%等だった。直接因子は発熱・感染症33%、その他に薬剤の影響があった。せん妄の発症時期は、3日以内が8名、4日以降が13名、最長34日目は2名だった。3日以内の事例では、環境変化に加え感覚機能障害や排便コントロール不良等が要因となっていた。4日以降の事例では既往疾患の再燃あるいは新たに生じた症状の悪化が要因となっていた。27日以降の3事例は薬剤が影響していた。【考察】せん妄の発症要因は急性期で行われた研究と変わらなかった。しかし、せん妄発症要因の中でも促進因子が多く4日以降もせん妄を発症するという特徴があった。これは、高齢者は複数の疾患を有しており、入院経過中にも病状変化が生じやすいなど、せん妄リスク因子が複雑に潜在している。また、慢性期病院では入院期間が長く、入院初期の環境変化に適応しても、長期入院による心身への弊害からせん妄を発症しているものと考える。【結論】本研究では、せん妄発症は促進因子の影響が大きく、その中でも排便障害が多かった。また、3日以内のせん妄発症では環境変化によるものが多いが、4日以降では既往疾患の再燃や新たに生じた症状の悪化や薬剤が影響していることが明らかとなった。