[口演48-4] 慢性心不全末期患者のせん妄予防の検討
閾値下せん妄状態のケア構築を目指して
【背景】慢性心不全の状態に陥った患者は、長い療養期間のなかで増悪と寛解を繰り返し徐々に機能が低下していく病態を経る。急性増悪した患者は呼吸困難により、死を想定するような不安と恐怖に駆られ不穏状態に陥る状況に遭遇しているが、せん妄評価基準から除外されるケースがあり、臨床の場においてケアのあり方に困難を感じている。閾値下せん妄とは、せん妄と非せん妄の中間に位置する病態であると定義(石光.2016)され、せん妄発症の危険性が高いとされている。今回、慢性心不全末期にある患者の急性増悪時の経過を後方視的に振り返り、せん妄予防のあり方を検討したいと考えた. 【目的】本実践は、慢性心不全末期にある患者の経過を後方視的に振り返り、せん妄予防のあり方を検討する。【実践内容・方法】事例(A氏60代男性)は、難治性心不全末期にあり急性増悪にてハイケアユニットに緊急入院となり、入院5日後B病棟へ転入となった。入院時におけるせん妄リスクアセスメントでは、ハイリスク群に該当せず除外となっていた。A氏の経過記録より、転入後の経過を後方視的に情報収集した。薬物療法として、心不全治療薬(以下、ドブタミン)、不安時薬剤として抗精神病薬(以下、リスペリドン)の使用状況、身体所見として心胸郭比(以下CTR)、酸素飽和度(以下SpO2)、呼吸数、及び本人の訴え、睡眠覚醒リズム、ナースコール回数を経過一覧として整理した。さらにDST( Delirium Screening Tool)を用いてせん妄評価を行った。倫理的配慮として、個人が特定されないよう匿名化し厳格な情報管理を行うこと、学術集会で症例報告することを書面で説明し同意書をもって同意を得た。【結果】転入後A氏は、夕刻になると不安増強しナースコールを連打し多弁興奮傾向であった。これに対しリスペリドンを頓服から定時処方に切り替えナースコールは減少とともに、夜間の症状出現は落ち着いた。またCTR拡大ありドブタミンの調整下、息苦しさ不安の訴えあるがSpO2や呼吸数の乱れはなかった。DST評価は、A:意識・覚醒の項目、B:認知の項目、C:症状の変動の項目中2項目に該当した。【考察】今回、A氏の臨床所見からCTR増大、呼吸困難の身体症状を呈しているものやSpO2や呼吸数の乱れはなく、夜間に不安、恐怖、多弁、興奮にあることから閾値下せん妄であると考えられた。心不全患者に合併するせん妄の半数が、せん妄と認識されず、適切なせん妄の対応に繋がっていない(日本循環器ガイドライン.2021)ことからも、閾値下せん妄に対し、症状や日内変動などの観察を行い患者を多角的な視点からアプローチしていく必要がある。【実践への示唆】せん妄リスクアセスメントの改訂と共に、閾値下せん妄状態にある慢性心不全末期患者の事例検討を重ねエビデンスを蓄積して行く事が求められる。