第55回(2024年度)日本看護学会学術集会

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口演

口演56群 がんとともに生きる人と家族への支援

Sun. Sep 29, 2024 1:30 PM - 2:30 PM 第7会場 (中会議室B1+B2+B3)

座長:菅原 真由美

[口演56-2] 腹膜切除した患者への身体マッサージの効果

藤田 京子, 佐藤 優子, 大黒 ちあき, 阪井 亜希子 (徳島県立中央病院)

【背景】虫垂腫瘍から生じた腹膜偽粘液腫により、腹膜切除術を行った経緯のある50代女性患者に関わった。腹膜以外にも腹腔内臓器のほとんどを切除しており、侵襲の大きな手術を行なった影響で腸管癒着が高度な状態と推測され、それによる腹部膨満感、便秘、悪心などの症状が増悪し、食事が摂れなくなっていた。「ずっと吐き気があって吐いている。吐き気止めは効かない。夜も眠れない。」と訴えていた一方で、「こんな状態やのに食欲はあるんです。食べることだけが楽しみ。」と食事をいちばんの楽しみにしていた。作業療法士が下肢・腹部のマッサージを施行したところ、症状の改善がみられたため、看護師も実施できるように計画した。腹膜切除術を行った患者に対して、腹部のマッサージを行うことは腸管損傷のリスクが懸念されたが、苦痛の緩和につなげることができたため、症例を振り返り、マッサージを用いた介入の効果について報告する。【目的】腹膜偽粘液腫により腹膜切除した患者の腹部膨満感・便秘・悪心に対するマッサージを用いたケアの介入の効果を振り返る。【実践内容・方法】マッサージを行った記録とその反応を、診療記録から抜粋し振り返る。症例報告を行うにあたり、情報は匿名化することを書面で説明し、A氏本人に直接同意を得た後、A病院の倫理審査委員会の審査を受け、承認を得た(承認番号23-35)。【結果】45日の間にマッサージは100回行われ、合計4495分、1回の平均時間は44.95分であった。マッサージ後の反応は、「便が出た」が43回、「ゲップが出た」が20回、「眠れた」が3回であった。下剤も併用しているが、43回中25回がおよそ3時間以内に排便がみられた。マッサージを繰り返す中、在宅に向けての話や家族の話などを吐露されるようになり、退院前には「ここに入院して本当によかった。」「ここにおったら家族みたいによくしてもらった。体も気持ちも楽になった。ここにおったら安心できる。」という言葉が聞かれた。【考察】腹膜を切除し、腸管が腹壁に癒着している状態であっても効果がみられた。また、手の温もりとともに、最中の会話のやりとりの中で積み重ねられた信頼関係によって、安心感をももたらされている。マッサージを行うことで排便が誘発され、腹部膨満感や悪心が軽減し、食べる楽しみを損なうことなく“A氏らしさ”を持ち続けることができた。症状を緩和できるよう、少しでも好きなものを食べられるよう、患者の苦痛を和らげたいという強い思いが、関わった看護師、作業療法士にあり、それぞれの思いが同じベクトルを向いていたことが、今回の結果につながったと言える。【実践への示唆】腹膜偽粘液腫とは非常に稀な疾患であり、その治療法として腹膜切除術が有効とされている。術後合併症や看護研究などに関する記述が少ない中、今回行ったA氏への介入が効果的であったため、同様の症状で苦痛を生じている患者の症状緩和に役立てたい。