[ポスター56-4] 終末期がん患者にレスキューを使用する看護師の倫理的ジレンマ
~意思表示できない患者に焦点をあてて~
【緒言】先行研究において,終末期ケアを実践する看護師が抱く葛藤は明らかになっていたが,意思表示できない終末期がん患者にレスキューを使用する看護師の倫理的ジレンマは明らかになっていない.そこで終末期がん患者にレスキューを使用する看護師の倫理的ジレンマを明らかにすることは,患者ごとの疼痛管理の一助に繋がると考え,本研究に取り組んだ.【目的】終末期がん患者にレスキューを使用する看護師の倫理的ジレンマを明らかにする.【方法】同意書が投函されている回収箱から無作為に5名を抽出し,個別でインタビューを実施した.逐語録を作成し,「終末期がん患者にレスキューを使用する際の倫理的ジレンマ」について語られている部分に着目してコード化を行いサブカテゴリー,カテゴリーを抽出した.A病院倫理委員会の承認を得た(承認番号:第467号).【結果】研究参加者の平均看護師歴は15年,内科病棟平均勤務歴は4年7ヶ月であった.インタビュー平均時間は26.8分であった.分析の結果,終末期がん患者にレスキューを使用する看護師の倫理的ジレンマは≪早送りを実施することに対する躊躇い≫,≪医師の疼痛管理に対する疑問≫,≪レスキューを使用しても患者の苦痛が軽減できない苦悩≫,≪患者の意思がわからない苦悩≫,≪遺される家族の思いを汲み取る難しさ≫の5のカテゴリーと12のサブカテゴリーが抽出された.【考察】本研究において≪遺される家族の思いを汲み取る難しさ≫が明らかになった.鈴木は「終末期患者の家族は,患者の死が避けられないことに気づくと,苦しい現実と向き合い,その状況に打ちのめされないように多様なニーズを持つようになる」と述べている.つまり,看護師が家族の思いを尊重しようとする一方で,自身の見え方や捉え方との違いに戸惑いを感じておりレスキュー使用の葛藤に繋がっていると考える.逆井は「終末期の中で可能な限りの援助を行った場合でももっとできることがあったのではないかという罪悪感は残りその中で自己を振り返ることが,臨床看護職者の成長を獲得する」と述べている.つまり,終末期がん患者に対して≪レスキューを使用しても患者の苦痛が軽減できない苦悩≫を抱くことに意味があり,よりよい看護に繋げるためには,終末期がん患者との関わりにおける悩みや葛藤をチームで共有し振り返ることが重要であると考える.【結論】終末期がん患者に個別性のある疼痛管理を行うためには,遺される家族の不安,恐怖,孤独に寄り添い,家族の望む最期になるようにチーム医療でサポートすることが重要である.また終末期がん患者との関わりにおける悩みや葛藤をチームで共有し振り返ることが大切である.本研究の限界としてインタビュー対象者が5名であり一般化が困難である.今後の課題は意思表示できない終末期がん患者だけではなく,対象の幅を広げて個別性のある疼痛管理を検討していくことである.