[ポスター6-3] がんが急速に進行する過程でのACP
-臓器提供の希望を実現させるために-
【背景】2018年に厚生労働省はアドバンス・ケア・プランニング(Advance Care Planning:以下ACPとする)を盛り込んだ「人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン」を提示した。これに基づき、がん看護専門看護師(Cancer Nursing Certified Nurse Specialist:以下CNSとする)はがん患者に対して、ACPを確認しながら患者が最期の時まで生きることを目指し看護している。今回、患者が自分の病気、身体、価値観と向き合い、ACPを実施し、臓器提供に至った事例を経験した。【目的】がんの診断を受け急速に病状が進行する過程で、CNSは患者が家族とACPをできることを目的に看護介入した。【実践内容・方法】A氏、60歳代、男性。原発不明がん(stageⅣ)。診断から死去まで2カ月。妻と成人した3人の息子と5人暮らし。診断直後からがん疼痛と下肢の浮腫が出現し、ベッド上での生活を余儀なくされた。CNSは、A氏の“今”と“これからの希望”に焦点を置き、ACPをA氏、家族と行った。ベッド上生活となったA氏は散髪を希望され、CNSは病棟看護師と相談し、病室で家族と一緒することを提案し、妻、次男と看護師でA氏の散髪を行った。その後、がん性リンパ管症が併発したA氏に症状緩和を主とした治療への変更を伝えると、A氏から「私、もうそんなに時間がないと思うんです。駄目になった時は臓器提供を希望しているんです」と意思表示を受けた。対象者には個人が特定されないよう匿名化することと情報の管理について、また、学術集会で症例報告として発表することを書面で説明し、同意書をもって同意を得た。【結果】ACPの一つとしてA氏は臓器提供の意思を伝え、妻からも同意を得ていた。しかし、妻は病状が急速に悪化するA氏を目の当たりにして、臓器提供は死後もなおA氏の体を傷つけるのではと考えていた。CNSは妻の想いを汲みつつ、A氏の希望を実現するために、院内移植コーディネーターと協同し、A氏と妻が想見できるように生前から臓器移植の流れを説明した。CNSは個別に妻と面談をし、不安や気がかりを聴いた。死去後、家族全員から同意を得て、角膜提供が行われた。A氏の死去から4カ月後にCNSは妻と面談をし、妻は「角膜を貰ってくれた方の中で、主人はまだ生きていますね」と臓器提供を肯定的に語られた。【考察】急速な病状進行の過程でも、A氏は自分の価値観と向き合い、家族とACPを実践した。また、臓器提供に向けて生前から院内移植コーディネーターと協働し準備を進めた結果、実現したと推察する。患者の死後に臓器提供の意思表示をしても家族の同意が得られないなどを理由に不成立の場合もあるが、A氏のACPで臓器提供の意思に気づき、調整したことは有意義であったと考える。【実践への示唆】今回、ACPにおいて臓器提供の意思を受け、生前から説明の場や患者、家族の想いを察知し、CNSとして調整をすることは患者の希望の実現に繋がることが示唆された。