[OD-2-3] 口述発表:運動器疾患 2強剛母指に対する腱鞘切開術後のsplint療法
【緒言】強剛母指は母指のIP関節伸展制限を主訴とする疾患であり,その治療はsplintによる保存的治療が多く,手術治療および術後作業療法の必要性についての医学的コンセンサスは得られていない.今回,強剛母指に対する腱鞘切開術後に,拘縮除去および再燃予防を目的としたsplint療法を経験したため,拘縮要因とsplintの効果について考察し報告する.
【対象と方法】3歳,女児,左利き,診断名は左強剛母指(杉本分類Ⅳ型),主訴は左母指IP関節の伸展障害であった.現病歴は,2歳3か月時に左母指IP関節の伸展障害に気付き当院を受診した.診断後,作業療法が開始となり,セラピストが作成した伸展保持splintで保存療法の方針となったが,可動域の変化はなく,母親の強い希望もあり3歳1か月時に腱鞘切開術を計画した. 研究デザインは,シングルケースデザイン(AB法)を用いた.初診時から手術までの保存期間10か月をA期(ベースライン期),手術後にsplint療法を行った6か月をB期(介入期)とし,測定指標には,母指IP関節伸展角度を用いた.効果判定には,最小二乗法による回帰直線の当てはめを行い,統計的手法である二項分布を用いた.なお,症例の母親および当院研究倫理審査委員会の承認を得た.
【術前評価および手術所見】関節可動域は,母指MP関節屈曲70度,伸展30度,IP関節屈曲60度,伸展-40度,%TAMは77%であった.手術は,A1pullyの遠位2mmを残して縦切し,IP関節伸展0度の可動域を得たが,拘縮を認め過伸展位とは至らなかった.なお,セラピストは手術に同行し,手術終了後の麻酔下に母指IP関節可動域とendfeelを確認した.
【splint】アクアプラスト®(酒井医療)2.4mm穴無しを使用し,ハンドベース型で母指橈側外転40度,IP関節伸展0度で採型した.また,母指末節骨部掌側にカットしたネオプレン®(酒井医療)を敷き,IP関節部のstrapを巻く強さの調整で,緩徐に伸展可動域を増加できるようdynamic splintの要素を応用した.
【経過】splintは術後翌日に作成し,終日装着とした.母親には,接触部に発赤や圧痕が残らない程度の弱い負荷で,strapを調整するように指導し,訓練では,splintを除去して,母指の自動屈曲運動を必要とする遊びを取り入れた.術後5日で退院し,週1~2回の外来作業療法を継続したが,術後3週時でも母指IP関節伸展-20度の制限を認めていたため,日中に3~5回splintを除去して,徐々に完全除去できるよう移行した.以降,母指IP関節の屈曲不全を予防しながら伸展可動域を増加させ,術後6週間でsplintを完全除去とした.
【結果】終了時の関節可動域は,母指MP関節屈曲70度,伸展30度,IP関節屈曲60度,伸展20度,%TAMは100%,Leeによる治療評価は治癒であった.最小二乗法では,母指IP関節の伸展角度の水準,勾配ともに改善を認め,二項分布においてもA期とB期に有意差を認めた.
【考察】武田(2007)は,強剛母指例に対する腱鞘切開術後の成績不良因子の一つに術前拘縮を挙げている.拘縮要因は,膨隆した長母指屈筋腱とA1pully部での干渉,母指IP関節の関節性の屈曲拘縮であると思われ,術中に伸展制限が残存していたことから,屈曲拘縮再燃の可能性があると予測し,splint療法の併用が望ましいと判断した.splintは,術中獲得した長母指屈筋腱の遠位滑走の維持に一定の効果を認めたことに加え,dynamic splintの要素を追加したことが,関節を構成する軟部組織の持続伸張に有効であったと思われた.
【結語】強剛母指例に対する腱鞘切開術後に伸展障害が残存している場合は,術後のsplint療法を併用することが有効であると思われた.
【対象と方法】3歳,女児,左利き,診断名は左強剛母指(杉本分類Ⅳ型),主訴は左母指IP関節の伸展障害であった.現病歴は,2歳3か月時に左母指IP関節の伸展障害に気付き当院を受診した.診断後,作業療法が開始となり,セラピストが作成した伸展保持splintで保存療法の方針となったが,可動域の変化はなく,母親の強い希望もあり3歳1か月時に腱鞘切開術を計画した. 研究デザインは,シングルケースデザイン(AB法)を用いた.初診時から手術までの保存期間10か月をA期(ベースライン期),手術後にsplint療法を行った6か月をB期(介入期)とし,測定指標には,母指IP関節伸展角度を用いた.効果判定には,最小二乗法による回帰直線の当てはめを行い,統計的手法である二項分布を用いた.なお,症例の母親および当院研究倫理審査委員会の承認を得た.
【術前評価および手術所見】関節可動域は,母指MP関節屈曲70度,伸展30度,IP関節屈曲60度,伸展-40度,%TAMは77%であった.手術は,A1pullyの遠位2mmを残して縦切し,IP関節伸展0度の可動域を得たが,拘縮を認め過伸展位とは至らなかった.なお,セラピストは手術に同行し,手術終了後の麻酔下に母指IP関節可動域とendfeelを確認した.
【splint】アクアプラスト®(酒井医療)2.4mm穴無しを使用し,ハンドベース型で母指橈側外転40度,IP関節伸展0度で採型した.また,母指末節骨部掌側にカットしたネオプレン®(酒井医療)を敷き,IP関節部のstrapを巻く強さの調整で,緩徐に伸展可動域を増加できるようdynamic splintの要素を応用した.
【経過】splintは術後翌日に作成し,終日装着とした.母親には,接触部に発赤や圧痕が残らない程度の弱い負荷で,strapを調整するように指導し,訓練では,splintを除去して,母指の自動屈曲運動を必要とする遊びを取り入れた.術後5日で退院し,週1~2回の外来作業療法を継続したが,術後3週時でも母指IP関節伸展-20度の制限を認めていたため,日中に3~5回splintを除去して,徐々に完全除去できるよう移行した.以降,母指IP関節の屈曲不全を予防しながら伸展可動域を増加させ,術後6週間でsplintを完全除去とした.
【結果】終了時の関節可動域は,母指MP関節屈曲70度,伸展30度,IP関節屈曲60度,伸展20度,%TAMは100%,Leeによる治療評価は治癒であった.最小二乗法では,母指IP関節の伸展角度の水準,勾配ともに改善を認め,二項分布においてもA期とB期に有意差を認めた.
【考察】武田(2007)は,強剛母指例に対する腱鞘切開術後の成績不良因子の一つに術前拘縮を挙げている.拘縮要因は,膨隆した長母指屈筋腱とA1pully部での干渉,母指IP関節の関節性の屈曲拘縮であると思われ,術中に伸展制限が残存していたことから,屈曲拘縮再燃の可能性があると予測し,splint療法の併用が望ましいと判断した.splintは,術中獲得した長母指屈筋腱の遠位滑走の維持に一定の効果を認めたことに加え,dynamic splintの要素を追加したことが,関節を構成する軟部組織の持続伸張に有効であったと思われた.
【結語】強剛母指例に対する腱鞘切開術後に伸展障害が残存している場合は,術後のsplint療法を併用することが有効であると思われた.