第56回日本作業療法学会

講演情報

一般演題

がん

[OF-4] 一般演題:がん 4

2022年9月17日(土) 14:50 〜 16:00 第5会場 (RoomB)

座長:小泉 浩平(埼玉県立大学)

[OF-4-5] 口述発表:がん 4頭頸部癌喉頭摘出者におけるQOLに影響を及ぼす因子の検討

三浦 裕幸12加藤 拓彦2田中 真2澄川幸志3津田 英一4
(1弘前大学医学部附属病院リハビリテーション部,2弘前大学大学院保健学研究科総合リハビリテーション科学領域,3福島県立医科大学保健科学部作業療法学科,4弘前大学大学院医学研究科リハビリテーション医学講座)

【緒言・目的】
頭頸部癌喉頭摘出者(以下喉摘者)は,腫瘍・喉頭摘出術や頸部郭清術等の影響にて,発声や嚥下,頸部・上肢機能に障害が生じ,ADL制限やQOL低下に繋がることが報告(名取,2006)されている.一方, 喉摘者の特性からリハビリテーションの報告数は嚥下や音声言語の練習を中心に年々増加しているものの,頸部・上肢機能障害や活動・参加制限に対する調査が不十分であると報告(Parke,2019)されている.
本研究では,喉摘者の機能,活動参加,環境等を総合的に調査し,QOLに関連する因子を明らかにし,QOL改善のために必要な作業療法について検討した.なお,本研究は本学保健学研究科倫理委員会の承認を得て実施した(2020-038).
【対象・方法】
本調査では,予め日本喉摘者団体連合会の支部にアンケート用紙を郵送し,書面による本研究の趣旨説明に同意が得られた喉摘者から無記名自記式にてアンケートの回答を得た(調査期間:令和2年12月〜令和3年1月).除外基準は,解析に必要な項目が空欄または明らかな誤答の場合等とした.基本属性として性別,喉頭摘出時年齢,術後経過期間,術後就業状況,同居者の有無,緊急連絡方法の有無を調査した.さらにQOLをEORTC QLQ-C30(EORTC30),低栄養をBMI,サルコペニアをSARC-F,嚥下と感覚問題(嗅覚・味覚)をEORTC QLQ-HN43(EORTC43),術後の頸部・上肢機能障害を頸部郭清術後機能質問表(NDQ),上肢関連ADLをQuick DASH-JSSH(Q-DASH)で評価した.統計解析は,QOL関連因子の検討のためにEORTC30活動性尺度を従属変数,他の項目を独立変数として重回帰分析(Stepwise法)を行った(SPSS Ver.26,有意水準5%).
【結果】
アンケートの有効回答人数は272名であった.基本属性は男性247人(90.8%),女性25人(9.2%),喉頭摘出時年齢63.3歳±8.9,術後経過期間10.5年±8.0,術後就業継続者94人(34.6%),同居者有り228人(83.8%),緊急連絡方法の準備者229人(84.2%)であった.EORTC30の活動性尺度は84.0±13.2,総括的QOLは66.9±22.2,症状尺度は20.3±13.5,経済状態は16.8±23.1,BMIは22.4±3.9,SARC-Fは1.3点±1.6,EORTC43嚥下は28.7±20.1,感覚問題は35.4±24.5,NDQは59.3点±12.8,Q-DASHは11.7±13.3であった.重回帰分析の結果,EORTC30活動性尺度の関連因子としてQ-DASH(β= -0.55),SARC-F(β= -1.87),EORTC43嚥下(β= -0.09)の3因子が抽出され,調整R2は0.61であった.
【考察】
本研究では,喉摘者の機能,活動・参加,環境等を総合的に調査しQOL関連因子を明らかにした.その結果,上肢関連ADL,サルコペニア,嚥下機能の3因子が関連していた.喉摘者は,術後の副神経麻痺や永久気管孔に起因する頸部・上肢機能や摂食嚥下機能,味覚・嗅覚機能の低下を呈しやすく食事摂取への問題が懸念される.加えて今回の調査では,術後経過期間が平均10.5年と長期で回答時年齢が70歳以上の対象者が多く,加齢の影響も加わり上肢関連ADLやサルコペニア,嚥下機能が選択された可能性が考えられた.喉摘者のQOL向上のためには,これら3因子に対して有効な作業療法によるリハビリテーション治療が望まれる.