第56回日本作業療法学会

講演情報

一般演題

発達障害

[OI-1] 一般演題:発達障害 1

2022年9月16日(金) 14:30 〜 15:30 第8会場 (RoomE)

座長:笹田 哲(神奈川県立保健福祉大学大学院)

[OI-1-4] 口述発表:発達障害 1登校が限局的な児と学校授業のアセスメントを行い終日登校に至った一症例

森川 詩奈12川本 明子3大戸 普賢12伊藤 香織24森川 敦子5 (1いろは訪問看護リハビリステーション,2山形県立保健医療大学大学院,3発達支援ルームみふぁそ,4発達支援ルームふぁそら,5株式会社 奏音)

【はじめに】
 不登校児童数は年々と増加傾向を辿り,文部科学省は全国の小・中学生児童の13万人強が不登校状態であると報告している.文部科学省は不登校児童への対応として,児童生徒の状況理解の促進,不登校状態の問題解決に加え,家庭・学校・民間施設等の連携ネットワーク等を挙げている.今回筆者らが所属する訪問看護リハビリステーションにおいて,限局的な登校となっている症例への介入のみならず家庭・学校・訪問作業療法士(以下,訪問OT)が連携し学校に再度登校できるようになったため報告する.本報告は,症例児及び保護者の同意を得た.
【症例紹介】
 9歳(小学3年生)男児,児童期発達適応障害.「学校で自分だけ嫌なことを言われる」と,学校での過ごしづらさを訴えた.それからは一日一時間のみ学校へ登校し,別室にて算数,国語,社会の授業をマンツーマンで受け限局的な登校となっていた.
【作業療法評価】
 WISC-Ⅳ知能検査では,全検査IQ75,言語理解指標74,知覚推理指標76であった.明朗な性格で,身体を大きく動かすことや車・電車の工作を好む.注意機能面では,活動や会話中の注意の逸れやすさがあった.他者との関わりでは,言語理解の低さから言葉の意味理解が不適当であるため他者の言動を誤って受け取っていた.また言葉での説明の苦手さも持ち合わせており,自身にとって嫌なことを断れずにいた.そのためフラストレーションが蓄積されると爆発的な感情表出となっていた.
【介入方針と経過】
 訪問開始当初は,信頼関係構築のため身体を大きく動かすなど症例の好みの活動を共有することとした.次に,訪問OTとの関わりの中で症例の思いや気持ちを傾聴し,症例のものごとの捉え方について振り返りを実施することとした.症例への介入と並行し,症例の通う学校と症例が登校しやすい環境作りと調整を行うこととした.
 訪問開始後より症例の好みの話題や,工作を訪問OTと一緒に共有することですぐに信頼関係を築くことができた.次第に症例から,学校の話題や友人の振る舞いによる苛立ちなど学校に関する話題を話すことが多くなっていった.その際,訪問OTが話題に挙がった友人の気持ちの代弁や,当時の状況を一緒に振り返ることで,症例の誤った捉え方への気付きを促した.学校連携としては,症例の評価とその解決策の共有を行った.さらには,症例が学校に登校しやすい授業時間の提案を行った.具体的には,症例の得意な身体を動かす体育の時間,言葉の代わりに自身を表現しやすい図画工作の時間を活用することを学校へ伝えた.症例は体育や図画工作時間の参加増加に伴い段々と友人らと話す機会が増え,現在は学校に終日通い,友人らと下校している.友人の言動に違和感を抱いた時は母や訪問OTに相談しており,爆発的な感情表現などの不適応な行動は少なくなっている.
【考察】 
 今回,症例の学校での過ごしづらさを評価することで,症例自身が自己理解を深めることができた.訪問OTとの関わりを通じ,フラストレーションの解決策として周囲の大人に相談するといった対処法の獲得へと繋がったと推察する.学校連携モデルの一つとして,「学校コンサルテーション」が挙げられる.作業療法士は学校コンサルテーションにおける役割として,作業分析や環境調整等の視点から学校の授業を含む,授業内容のアセスメントを行うことができると考える.今回,症例の特性と授業を相互に評価し学校へ提案,協働することにより,学校へ登校しやすい環境作りや,再登校への一助になったと推察する.