第56回日本作業療法学会

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一般演題

高齢期

[OJ-1] 一般演題:高齢期 1

Fri. Sep 16, 2022 12:10 PM - 1:10 PM 第7会場 (RoomD)

座長:木村 大介(関西医療大学)

[OJ-1-2] 口述発表:高齢期 1栃木県県北地域在住の高齢自動車運転者の認知機能と運転行動に関わる実態調査

鈴木 志織1小賀野 操2関 優樹2矢野 羽奈2 (1国際医療福祉大学熱海病院リハビリテーション部,2国際医療福祉大学保健医療学部作業療法学科)

【研究背景と目的】2009年より道路交通法が改正され,75歳以上の自動車運転者は3年毎の免許更新時に認知機能検査と実車評価が義務付けられた.一方高齢自動車運転者(以下高齢ドライバー)自身は,心身機能・運転能力の低下を認識し,運転補償行動と呼ばれる事故を回避するような運転行動を実践していると報告されている.本研究の目的は,地域在住の高齢ドライバーの認知機能と運転補償行動を含めた運転実態を調査し,その関連を把握することである.
【対象と方法】対象者は,栃木県県北地域在住の65歳以上の高齢者32名とし,運転実態は運転目的,頻度,範囲等を把握する質問紙で,危険運転と運転補償行動は松浦ら(2008)の安全運転ワークブックで聴取した.認知機能は①Montreal Cognitive Assessmet日本版(以下MoCA-J),②Trail Making Test日本版のPart-A,Part-B(以下TMT-A,TMT-B),③時計描画検査のCLOXⅠ,④改訂長谷川式簡易知能評価スケール(以下HDS-R)の流暢性検査で調査した.運転行動と神経心理学的検査との関連はMann–WhitneyのU検定を使用し有意水準は5%とした.
 本研究は国際医療福祉大学大学院倫理審査委員会の承認(19-Io-195-2)を得て実施した.
【結果】対象者は男性18名,女性14名の計32名で年齢平均は73.0±5.7歳であった.
 運転範囲では「市をまたいで運転」18名,運転目的は「買い物のため」30名が最も多く,全員が2週に1日以上運転していた.危険経験「あり」20名の内容(複数回答)では「ヒヤリとした経験」14名,「車をこする」7名,「物損事故」3名,「対人事故」1名が報告された.
 危険運転の認識15項目では「あまりない」の回答が多かったが,物忘れは20名が「ある」と回答していた.対して,補償運転15項目では「数年前からしている」の回答が多く,特に 「危ない車や自転車には近づかないようにする」は30名と最も多かった.また「している」の平均項目数は11.1,中央値は12(最大15~最小1)であり,全員が何らかの運転補償行動を取っており,内31名は複数の運転補償行動を取っていた.
 神経心理学的検査の平均値は,MoCA-Jが23.7±4.2点,TMT-Aが59.7±18.8秒,TMT-Bが119.2±59.8秒,CLOXⅠが12.8±2.2点,HDS-Rの流暢性検査が4.9±0.5点であった.年齢平均+1SDよりも所要時間が長かったのはTMT-Aで20名,TMT-Bで18名であった.また,MoCA-Jの総得点が25点の基準値以下は18名と半数以上であった.
 統計学的解析で,補償運転項目選択数11以下と12以上の2群に分けて比較したところ,TMT-A(p<0.05)およびTMT-B(p<0.05)の所要時間でのみ有意差が認められ,危険経験の有無や危険運転の認識と神経心理学的検査に関連はなかった.
【考察】自動車運転の目的は先行研究同様,買い物・通院など生活上の移動手段であることが示された.また,MoCA-JやTMTは,対象者の半数以上が基準値以下であったが,その多くは複数の運転補償行動を採用して事故なく運転を継続されており,神経心理学的検査のみでは運転の危険性は判断できない可能性が示唆された.そして,先行研究同様,注意機能と運転補償行動との間に関連が認められた.
 高齢ドライバーでは,心身機能の低下と共に運転における危険が認識され,その結果運転補償行動が起こっていると仮定したが,危険運転の認識と神経心理学的検査に関連は認められなかった.この理由として,運転に対する自信から危険運転を認識しない・認めない,何らかの心身機能低下の認識が危険運転の認識を介さず直接運転補償行動に繋がっている,自分の運転が危険と思わなくても予防的に運転補償行動を採用しているなど複数の可能性が考えられ,今後の研究の課題である.