第56回日本作業療法学会

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一般演題

高齢期

[OJ-5] 一般演題:高齢期 5

Sun. Sep 18, 2022 9:40 AM - 10:40 AM 第3会場 (Annex2)

座長:佐川佳南枝(京都橘大学)

[OJ-5-4] 口述発表:高齢期 5地域在住高齢者における社会的フレイルと心の理論との関連

ハン ゴアンヒ1丸田 道雄1下木原 俊2池田 由里子3田平 隆行3 (1鹿児島大学医学部客員研究員,2鹿児島大学大学院保健学研究科博士後期課程,3鹿児島大学医学部保健学科作業療法学専攻)

【序論】フレイルは,身体的問題のみならず,認知機能障害や精神・心理的問題と,独居や経済的困窮などの社会的問題も含む概念である(日本老年医学会,2014).高齢化が急速に進んでいる日本では,高齢者の社会的・心理的問題への支援が求められている.一方,社会的認知の心の理論(ToM)は,自己と他者の思いや意図などを推測する能力であり(Premack et al., 1978),社会生活において不可欠である(Beer et al., 2006).社会的フレイルに関しては様々な研究が報告されているが,社会的認知との関連に関する研究は皆無である.社会的フレイルと社会的認知との関連を調べることによって,社会的フレイルの予防や支援の対策に一助となる可能性がある.
【目的】本研究の目的は,社会的フレイルと社会的認知との関連を明らかにすることである.
【方法】対象は,2017年の垂水コホート研究に参加した地域在住高齢者380名の中から,認知症や脳卒中,要支援・要介護認定者およびデータ欠損者を除外し,健常高齢者312人(74.7±6.4歳,女性235人)を解析の対象とした.社会的フレイルの判定は,①独居である(はい), ②昨年に比べて外出頻度が減っている(はい),③友人の家を訪ねている(いいえ),④家族や友人の役に立っていると思う(いいえ),⑤誰かと毎日会話をしている(いいえ)の5項目中,2項目以上に該当する場合,社会的フレイルと定義した(Makizako et al., 2015).ToMの1次信念課題は,古典的なサリーとアン課題(Baron-Cohen et al., 1985)を4コマの絵で構成し実施した.ToMの2次信念課題は,サリーとアン課題の[場面③]に「サリーは,アンに気づかれないように,アンが宝物を移す様子を窓からみている」という内容を加えたものを独自に作成し実施した.解析は,社会的フレイルに関して健常群とフレイル群に分け,2群間の年齢や性別,教育年数,ToMの1次信念課題と2次信念課題の成績と解答時間などについて,カイ二乗検定とMann-Whitney U検定を使用して比較検討を行い,有意な差を認める項目を独立変数とし,社会的フレイルを従属変数(健常:0,社会的フレイル:1)としてロジスティック回帰分析を行った.統計解析はSPSS ver.26.0を用い,有意水準は5%未満とした.本研究は鹿児島大学医学部倫理審査の承認(疫170103)を得て実施した.
【結果】健常群(270人,女性199人)と,社会的フレイル群(42人,女性36人)との比較では,年齢(健常群:74.4±6.3歳,社会的フレイル群:77.0±6.8歳),教育年数(健常群:11.1±2.0年,社会的フレイル群:10.3±1.7年),一次信念課題の成績(健常群:1.8±0.6点,社会的フレイル群:1.5±0.8点)で2群間の有意な差がみられた(p<0.05).ロジスティック回帰分析の結果,社会的フレイルは,年齢や教育年数に比べ,一次信念課題の成績と強い関連がみられた(オッズ比:0.64,95%信頼区間: 0.42-0.98,p <0.05).
【考察】本研究の結果では,基本的な社会的認知機能であるToMの一次信念と,社会的フレイルとの関連が示され,一人の他者の思いを理解する能力の低下は社会的フレイルに繋がる可能性があることが推察された.社会的フレイルは,日常生活活動の低下や要介護,死亡の危険因子になり得ることも報告されおり(Garre-Olmo et al., 2013),社会的フレイルの予防と支援のためには,社会的認知の維持と低下の予防に対するアプローチも必要であると思われる.