第56回日本作業療法学会

講演情報

一般演題

認知障害(高次脳機能障害を含む)

[OK-2] 一般演題:認知障害(高次脳機能障害を含む) 2

2022年9月16日(金) 15:40 〜 16:50 第7会場 (RoomD)

座長:生田 純一(農協共済中伊豆リハビリテーションセンター)

[OK-2-4] 口述発表:認知障害(高次脳機能障害を含む) 2没入型VRを用いた買い物課題の妥当性の検討

伊藤 竜二1柏木 晴子1森田 勝1日比野 新2 (1名古屋市総合リハビリテーションセンター作業療法科,2名古屋市総合リハビリテーションセンター企画研究室)

【背景】バーチャルリアリティー(以下VR)はヘッドマウントディスプレイ(以下HMD)を用いると360度の立体的な視覚空間を疑似体験できる(辻本,2020).先行研究では,全般性注意機能や展望記憶などとの関連が示されている報告(岡橋,2012)や,半側空間無視が改善したという報告がみられる(安田,2020).しかし,本邦では健常者を対象とした買い物に焦点を当てた報告や有効視野との関連の報告は少ない.
【目的】本研究の目的は,食料品店において商品を探索するという行動に焦点を当てた視覚探索課題(VR課題)を作成し,VR課題がどのような認知機能をみているものか明らかにすることである.
【対象】健常者32名(男性15名,女性17名,平均年齢40.5歳±10.30)で,課題を行える視覚機能,認知機能に問題がないものとした(MMSE≧27点).
【方法】本研究は,健常者を対象にVR課題を実施し,視覚性の注意課題,即時記憶,有効視野検査との相関を調べた.VR画像の撮影には,全天球カメラRICOH THETA S(RICOH)を使用し,食料品店の陳列棚を正面から撮影した.VR課題はHMDを使用し,陳列棚が写された360度静止画像を見て商品を探索する課題とした.商品の探索範囲は,明確に商品を視認できる範囲(縦105cm×横172cm)とした.探索範囲は縦3等分,横4等分し,12枠から1商品ずつ指定し計12問実施した.対象者には探索する商品の画像を記憶し,陳列棚の画像からできるだけ早く見つけるように教示,探索時間を計測した.併せて視覚性注意機能の指標としてTrail Making Test(partA,B)(以下TMT),即時記憶の指標としてTapping Span,有効視野の指標としてUseful Field of View検査(以下UFOV)を実施した.統計解析はVR課題の各項目とTMT,Tapping Span,UFOVとの相関係数(Spearmanの順位相関係数)を算出し,有意水準は5%とした.本研究は当院の倫理審査委員会の承認を受け,対象者には研究内容を説明し同意を得た.
【結果】VR課題は対象者全員が12カ所すべての探索が可能で,探索に要した合計時間は88.3秒±29.71であった.12カ所の商品とTMT,Tapping Span,UFOVとの相関を調べたところ, TMTはpartAは2カ所,partBは4カ所,UFOVはtest3は4カ所に有意な正の相関(p<0.05)がみられた.Tapping Spanには有意な相関はみられなかった.
【考察】VR課題はTMT(partA)で評価される単純な視覚性の探索速度よりも,TMT(partB)で評価される転換性注意や視覚性ワーキングメモリーとの関連や,UFOVのtest3との有意な相関が多くみられたことから,隙間なく商品が並んでいる陳列棚から目的の商品を探索するために干渉刺激に対して適切に情報を処理する能力を要する課題であることが示唆された. VR課題は机上の課題と比較してより広い範囲を探索する課題であり,上下左右への首振りによる探索をする必要があることが特徴である.探索範囲が広いことから,より効率的な探索には一度探索したところを除いて探すなど工夫が必要であり,遂行機能との関連についても調査が必要であったと考えられる.今後は高次脳機能障害者を対象として,病室や訓練室にいながら,より早い段階から移動時間を必要とせずに実施することができる買い物の評価として活用が期待される.