[OK-4-4] 口述発表:認知障害(高次脳機能障害を含む) 4畳屋を営む若年性アルツハイマー病者に工程分析を用いて就業能力を評価し,就労継続支援を実施した一例
【はじめに】若年性認知症とは65歳未満で発症した認知症のことを指す.2020年の報告では,全国における若年性認知症者数は3.57万人と算出されている.約6割が発症時点で就業しているものの,その内約7割が退職しており,本人の就業能力や残存能力に応じた適性を評価し,就労継続が可能となるよう支援することが重要である.若年性アルツハイマー病(Alzheimer’s Disease: AD)の症例に対し,仕事内容の工程ごとの分析を活用した評価を元に就労継続支援を実施したので報告する.
【症例紹介】症例は50歳代の右利き男性,教育歴は9年.自営業で畳屋を営んでいる.X-4年,物忘れが出現し,運転時に車を擦る,蝶々結びができない,畳の製作工程が分からなくなる等の症状が徐々に出現し,X年に当科外来に紹介された.日常生活動作について,Physical Self-Maintenance Scaleが6/6,LawtonのInstrumental Activity Livingの男性項目は5/5であり,日常生活は自立.神経心理検査では,MMSEは21/30 (見当識-2, serial7’s -3, 模写 -1, 遅延再生 -3),Addenbrooke’s Cognitive Examination-Ⅲは66/100 (注意 10/18, 記憶12/26, 流暢性 13/14, 言語24/26, 視空間 7/16)であり,注意障害,近時記憶障害,視空間認知障害を認めた.神経学的異常所見を認めなかったが,「紐をうまく結べない」と訴えがあり,巧緻性を評価した.小銭やトランプ,爪楊枝などのつまみ動作は保たれていたが,ボタン操作はやや拙劣で手袋をはめる際も指をうまく通せず,肢節運動失行を疑う巧緻性低下を認めた.頭部MRIで両側頭頂葉の萎縮,脳血流SPECTで右優位に両側頭頂葉,後頭葉の血流低下を認め,アミロイドPETは陽性であった.若年性ADの診断を受け,ドネペジル開始後5 mgまで増量したが効果は限定的であった.本報告に際して,患者と家族に書面にて説明し同意を得ている.
【経過】仕事内容のどの工程でどのようなエラーが生じているかを評価するため,畳仕事の職場を訪問し評価した.症例の業務内容は主に「畳の張り直し」であり,全行程の観察と家族の聞き取りの結果,工程は大きく次の6つへ分類された.①古い畳の縁と糸をとる,②古い畳を採寸する,③新しい畳で,縫い代を残して余分な部分を一部切る,④機械を用いてゴザの幅側を縫う,⑤ゴザの余分な部分を切る,⑥畳縁を機械で縫う.本症例のエラーは,①の工程で,作業場を何度も行き来するなど作業の着手にとまどっており工程の完遂に時間がかかる様子,②ではこの工程を忘れており先に③を実施してから②を実施,③では切る位置がずれる,④ではゴザを歪んで縫う,⑤は切る位置がずれる,⑥は待ち針をとり忘れて機械に巻き込む,が確認された.全体の流れは手続きとして覚えていたが,注意障害,記憶障害,視空間認知障害,巧緻性低下によって各種のエラーが生じていると考えられた.特に④-⑥の工程では,エラーによって仕上がりの品質にも関わることであった.①-③の工程と,畳を運ぶなど畳の貼り直し以外の業務は症例が実施できることを確認した.これらの残存能力を家族と職人へ説明し,仕事内容の調整を依頼した.その後,本症例は安全に遂行が可能なこれらの業務内容を中心に仕事を継続することができた.
【考察】工程分析を用いた仕事内容の評価を実施することで,就業能力や残存能力に応じた適性を捉え,就労継続に繋がったと考えられる.ただし,本症例が自営業であるため,柔軟に実施できた対応であるかもしれない.今後は病状の進行に合わせて社会資源の活用など支援内容を変化させながら,より良い生活の提供をはかることが重要と考えられる.
【症例紹介】症例は50歳代の右利き男性,教育歴は9年.自営業で畳屋を営んでいる.X-4年,物忘れが出現し,運転時に車を擦る,蝶々結びができない,畳の製作工程が分からなくなる等の症状が徐々に出現し,X年に当科外来に紹介された.日常生活動作について,Physical Self-Maintenance Scaleが6/6,LawtonのInstrumental Activity Livingの男性項目は5/5であり,日常生活は自立.神経心理検査では,MMSEは21/30 (見当識-2, serial7’s -3, 模写 -1, 遅延再生 -3),Addenbrooke’s Cognitive Examination-Ⅲは66/100 (注意 10/18, 記憶12/26, 流暢性 13/14, 言語24/26, 視空間 7/16)であり,注意障害,近時記憶障害,視空間認知障害を認めた.神経学的異常所見を認めなかったが,「紐をうまく結べない」と訴えがあり,巧緻性を評価した.小銭やトランプ,爪楊枝などのつまみ動作は保たれていたが,ボタン操作はやや拙劣で手袋をはめる際も指をうまく通せず,肢節運動失行を疑う巧緻性低下を認めた.頭部MRIで両側頭頂葉の萎縮,脳血流SPECTで右優位に両側頭頂葉,後頭葉の血流低下を認め,アミロイドPETは陽性であった.若年性ADの診断を受け,ドネペジル開始後5 mgまで増量したが効果は限定的であった.本報告に際して,患者と家族に書面にて説明し同意を得ている.
【経過】仕事内容のどの工程でどのようなエラーが生じているかを評価するため,畳仕事の職場を訪問し評価した.症例の業務内容は主に「畳の張り直し」であり,全行程の観察と家族の聞き取りの結果,工程は大きく次の6つへ分類された.①古い畳の縁と糸をとる,②古い畳を採寸する,③新しい畳で,縫い代を残して余分な部分を一部切る,④機械を用いてゴザの幅側を縫う,⑤ゴザの余分な部分を切る,⑥畳縁を機械で縫う.本症例のエラーは,①の工程で,作業場を何度も行き来するなど作業の着手にとまどっており工程の完遂に時間がかかる様子,②ではこの工程を忘れており先に③を実施してから②を実施,③では切る位置がずれる,④ではゴザを歪んで縫う,⑤は切る位置がずれる,⑥は待ち針をとり忘れて機械に巻き込む,が確認された.全体の流れは手続きとして覚えていたが,注意障害,記憶障害,視空間認知障害,巧緻性低下によって各種のエラーが生じていると考えられた.特に④-⑥の工程では,エラーによって仕上がりの品質にも関わることであった.①-③の工程と,畳を運ぶなど畳の貼り直し以外の業務は症例が実施できることを確認した.これらの残存能力を家族と職人へ説明し,仕事内容の調整を依頼した.その後,本症例は安全に遂行が可能なこれらの業務内容を中心に仕事を継続することができた.
【考察】工程分析を用いた仕事内容の評価を実施することで,就業能力や残存能力に応じた適性を捉え,就労継続に繋がったと考えられる.ただし,本症例が自営業であるため,柔軟に実施できた対応であるかもしれない.今後は病状の進行に合わせて社会資源の活用など支援内容を変化させながら,より良い生活の提供をはかることが重要と考えられる.