第56回日本作業療法学会

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一般演題

地域

[ON-3] 一般演題:地域 3

Sat. Sep 17, 2022 10:10 AM - 11:10 AM 第3会場 (Annex2)

座長:由利 禄巳(森ノ宮医療大学)

[ON-3-3] 口述発表:地域 3通所リハビリテーション若年利用者の社会参加としての就労支援事例

~障害を受容する過程に焦点を当てて~

加茂 永梨佳1西村 彩2四本 かやの3古和 久朋3 (1神戸大学大学院保健学研究科博士課程前期課程,2医療法人社団永生会永生病院高次脳機能障害支援事業推進室,3神戸大学大学院保健学研究科)

【序論】通所リハビリテーション(以下通所リハ)の64歳以下の利用者は全体の5.2%と非常に少ない(全国デイ・ケア協会,2020).若年利用者の中には就労を目標とするケースが一定数存在するが,目標達成に至らないことも多い(二神,2018).
【目的】一般就労を希望していた若年利用者が主観的満足を伴って福祉的就労に至った経過から,障害の受容状態への着目及び実生活で経験する機会の確保の重要性を報告する.事例から発表の同意を得ている.
【方法】A氏は50歳代後半で無職の男性であった.大学卒業後に就労し転職を繰り返した.20歳代に自律神経失調症で精神科通院し薬物療法を継続した.半年前に脳腫瘍の摘出手術を行った.主診断名は腰部脊柱管狭窄症(2年前)で腰痛軽減と就労を希望し,通所リハを週2回の頻度で開始した.“自分に合った仕事をする”に対するCOPMは重要度5,遂行度1,満足度1,FIMは125点,Frenchay Activities Index(以下FAI)は12点,Life-Space Assessment(以下LSA)は58点で,自宅で過ごす時間が長かった.MMSEは30点,脳腫瘍術後から体力低下があり,腰痛のNumerical Rating Scaleは5で医師によると残存する可能性が高かった.【経過・結果】1~4か月目:A氏の就労への動機は「収入よりも社会との繋がりを得ること」であり,多様な働き方を検討できる可能性があった.担当作業療法士(以下OT)は障害福祉サービスの情報を提供したが,A氏は「障害者の通うところだと思う.」と利用には否定的であった.A氏は就労の阻害要因を身体面の課題(体力低下,腰痛)と高齢であることと捉えていたため,OTは高齢者の就労相談ができる地域障害者職業センターでの面談を提案した.面談で職業カウンセラーから一般就労のためには活動量向上が必要であることや障害福祉サービスについて説明を受けた.A氏は前者に対してのみ納得し「まずは自分なりに外出を増やそうと思う.」と外出時間の増加を目標とし,OTはA氏の意向を尊重した5~6か月目:図書館へ一度出掛けたが継続は困難であった.外出する能力はあるが習慣化に課題があるとOTは判断し,定期的な外出先としての障害福祉サービス等の利用を提案すると「外出を自分で増やすのは難しい.障害福祉サービスを見学したい.」と述べた.7~13か月目:就労継続支援B型事業所の見学と体験利用の後に利用を開始し通所リハを終了した.最終評価ではCOPMは遂行度7,満足度6,FAIは22点(外出,屋外歩行,仕事,交通手段の利用等が改善),LSAは82点(移動範囲と頻度が改善)でその他は初期評価と比較し著変なかった
【考察】FAI,LSA,COPM遂行度の向上は,就労を通して社会参加が拡大したことを示し,COPM満足度の向上はそれらの結果への主観的満足を意味すると考える.今回A氏が受容できている高齢である点から取り組み高齢者の就労相談の場を提案し,外出時間を増加させる際には自己決定の上,実生活で自ら計画を立て外出時間を増やす試みを実施した後に課題を共有した.障害受容の心理過程モデル(O’Callaghan,2006)では,自身のペースが尊重され自己決定することに加え,実生活での経験を通してアウェアネスの獲得や障害受容が促進されるとされ,このような今回のA氏への関わり方からアウェアネスの獲得や障害受容が促進されたと考えられる.一般就労という高すぎる目標を掲げる利用者が主観的満足を伴い福祉的就労に至ったのは,障害の受容状態へ着目し利用者のペースを尊重し,実生活で経験する機会を確保したためと考える.