第56回日本作業療法学会

講演情報

一般演題

地域

[ON-5] 一般演題:地域 5

2022年9月17日(土) 12:30 〜 13:40 第3会場 (Annex2)

座長:中島そのみ(札幌医科大学)

[ON-5-4] 口述発表:地域 5小学校児童の友人や教師との交流に対する母親認識に影響を与える要因

~母子4480組の横断的調査~

中村 裕美1森 正樹1上原 美子1森田 満理子2佐野 伸之3 (1公立大学法人埼玉県立大学保健医療福祉学部 大学院保健医療福祉研究科,2公立大学法人埼玉県立大学保健医療福祉学部,3福岡国際医療福祉大学医療学部作業療法学科)

【はじめに】 通級では,軽度の発達の遅れが疑われる児童に,通常学級とは別に個別対応を提供する(文科省2020).この通級の利用が親の申出に基づくため,我々は,子の学校生活に対する親の認識に影響を与える要因を知ることが,利用の開始や効果判定に必要であると考えた.
【目的】 母子交流が子の社会性や認知能力の基盤となり(NICHD 2004),友人や教師との肯定的交流は,発達上の懸念の有無に関係なく児童の心の健康に寄与する(Okaら2021).我々は,小学校2年生の母子ペアを想定して「子の友人や教師との関係性への母認識(M1)は,子が認識するその関係性(C1)や学習行動(C2)に影響を受け,それら子の認識は母の養育態度(M2)に影響を受け,さらにその態度は子が認識する交流課題(C3)に影響を受ける」という仮説検証を試みた.
【方法】某県教育委員会との協業で作成したオリジナルの調査紙を用いた.母親には,M1を5項目(友達とたくさん遊んでいる,教師と話すのは嬉しいらしい 等)で構成し,回答を「とてもそう思う」から「全くそう思わない」の4尺度で求めた.M2を6項目(子が学校の出来事を話す時に傾聴する 等)で構成し,回答を頻度で「ほぼ毎日行う」から「全く行わない」の4尺度で求めた.子には全項目に「はい」か「いいえ」で返答を求めた.C1に3項目(仲良い友達がいる,先生と話すのは嬉しい 等),C2に7項目(自分で授業準備ができる,頑張ればいいことがある 等),C3に4項目(他者をけなしたことがある 等)を配置した.基本情報には,母の年齢,教育歴,就業状況,子の性別を求めた.構造方程式モデリングを用いて,因子負荷量,パス係数,Root Mean Square Error of Approximation (RMSEA), Comparative Fit Index (CFI), Tucker Lewis Index (TLI)でモデルの適合を判定した.本研究は筆頭発表者の所属機関で承認された研究プロトコルに従った.
【結果】解析対象の母子4480組中,30歳代と40歳代の母が大多数を占め,非正規就労者が42%で,65%が高校後の高等教育の学歴を有し,90%が夫と養育していた.男児と女児は半々であった.母子ともに,全項目への有効回答率は97%以上で,それら全項目で,子の性別で回答に有意差は見られなかった.因子構造は,M1が友人との交流(M1F)と教師との交流 (M1T)に,C2が学習行動(C2L)と信念(C2B)に,それぞれ分割された.改訂モデルは,RMSEA0.015,CFI0.993,TLI0.985を示した (all p<0.005).C1(パス係数0.627)とC2B(0.411, both p<0.01)による二次因子「現状への子認識」(CNew)が構築された.M1FはCNew(0.637)とC2L(0.069)から,M1TはCNew(0.696)とC2L(0.191)から,それぞれ直接的肯定的な影響を受けた(all p<0.01).CNewはM2から肯定的な影響を(0.423),M2はC3から否定的な影響を(-0.128),それぞれ直接受けた(both p<0.01).C2LはC3と負の関係を示した(-0.746, p<0.01).
【考察】本研究では,内省困難などで調査対象に成り難い小学校低学年の子に対して,多機関の協業によって調査紙や調査手順への適切な配慮を行い,大規模集団から回答を得た.その回答から,子の友人や教師との交流に対する母の認識には,その関係性を含む現状への子の認識の仕方が重要で,子の普段の言動を通して,母がそうした子の認識を感じ取っていることが示された.そのため,通級利用の親の申出を検討する際に,子の友人や教師との関係性への親の認識を把握することが望ましいと考える.なお,子の他者交流の未熟さは,母の関わりの頻度を減じ,学習行動の困難とも関連したため,彼らの交流技能を支援する必要があることが示された.