第56回日本作業療法学会

講演情報

一般演題

地域

[ON-8] 一般演題:地域 8

2022年9月18日(日) 08:30 〜 09:30 第5会場 (RoomB)

座長:南 征吾(群馬パース大学)

[ON-8-2] 口述発表:地域 8社会的行動障害を有する高次脳機能障害者と共に暮らす家族の障害認識の変化

村下 佳1狩長 弘親2 (1医療法人創和会しげい病院リハビリテーション部,2吉備国際大学保健医療福祉学部作業療法学科)

【はじめに】
 社会的行動障害を有する高次脳機能障害者(以下,社会的行動障害者)のリハビリテーションでは,高次機能障害と関わる頻度の多い作業療法士においても,その症状を的確に捉える事は難しい.したがって医学的知識が乏しい家族ではさらにその障害を捉える事が困難な事が予測される.社会的行動障害者への支援では家族の理解の促進が不可欠であるが,家族の障害認識がどのように変化していくかは明らかとなっていない.
【研究の目的と意義】
 本研究の目的は家族と社会的行動障害者との社会生活の再開から現在までを,家族の心情を捉えながら,家族の障害認識がどのように変化するのかを明確にする事である.また本研究の意義は家族の障害認識の変化を明らかにする事で,どの段階でどのような支援を必要としているのかを明示できるようになる事である.
【方法】
 本研究は研究デザインとして複線径路等至性アプローチ(Trajectory Equifinality Approach;以下TEA)を採用した.データの分析にはSteps for Coding and Theorization(以下:SCAT)を用い,データの解釈にはTEAにおける複線径路等至性モデル(以下:TEM)を用いた.SCATでは,インタビューで得られた言語データをコーティングしていく事で事象のテーマや構成概念を抽出した.またSCATにおける構成概念をカテゴライズし,家族と当事者の生活が始まった日から現在までの軌跡を可視化できるようにTEM図を作成した.さらにTEM図より社会的行動障害者に対する家族の障害認識の変化や,各時期における家族の悩みや葛藤を捉えた.データ収集方法は,事前に用意したインタビューガイドに沿って半構造化インタビューを実施した.本研究は吉備国際大学の研究倫理審査委員会の承認後に実施しており,研究対象者らの同意も得ている.
【結果】
 本研究の対象者は4名,社会的行動障害者の発症・受傷からの期間は平均15.25±5.63年であった.SCATのデータ分析より得られた構成概念は10個のメインカテゴリーと40個のサブカテゴリ―(以下メインカテゴリーを【】と示す)に分類された.また家族らの精神的な負担感の変化を可視化すると,その特徴より3つの時期に分類することが出来た.第Ⅰ期は混乱の中で行動をしていた時期であり,高次脳機能障害を【理解する事が困難な障害】と捉え,精神的な負担感を最も強く感じていた.第Ⅱ期は生活への慣れより活動の幅が広がった時期であり,【家族会との出会い】をきっかけとし,【生活への慣れ】を経験していた.第Ⅲ期は覚悟を持って生活を行おうとしている時期であり,社会的行動障害者と共に暮らす家族は様々な苦悩を乗り越えて,【生活の継続】を行っていた.しかし社会的行動障害者の問題行動は時間経過と共に変化し,家族の負担感は緩やかに増加傾向となっていた.この時期の家族はその認識を【覚悟の上での生活を行うもの】と捉えていた.
【考察】
 社会的行動障害者の家族は生活の再開時が最も精神的な負担感を感じやすい事が明らかになった.これは入院生活時における退院後生活のイメージと現実生活との間に解離を生じている事が原因と考えられた.よって社会的行動障害者の医療機関の退院後では,家族が困った際に相談ができる場所などの情報提供の必要性が示唆された.また生活の慣れを感じ始める時期では,地域社会の中での社会的行動障害者が理解されやすくなるような環境作りが必要であると考えられた.さらに長期的な家族に対する支援策では,医療機関の理解促進とともに社会制度の構築への働きかけ,ケアマネージャーや家族会などの直接的に当事者と関わる方々との連携が必要であると考えられた.