第56回日本作業療法学会

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一般演題

地域

[ON-8] 一般演題:地域 8

2022年9月18日(日) 08:30 〜 09:30 第5会場 (RoomB)

座長:南 征吾(群馬パース大学)

[ON-8-4] 口述発表:地域 8シリア難民障害者の母国帰還と国際協力支援の課題

山本 清治12寺村 晃1 (1大阪保健医療大学作業療法学専攻,2神戸大学大学院保健学研究科パブリックヘルス領域)

1. 序論
シリア内戦激化により多くのシリア人が難民として国外に避難し,総人数5,643,864名が国連難民高等弁務官事務所(以下,UNHCR)に難民登録されている. そのシリア人の多くはシリア南部に隣接するヨルダンに避難しており,670,637名が難民として生活している. ヨルダン国内にはUNHCRが管理する難民キャンプが設置されているものの,その割合は全ヨルダンに居住するシリア難民の81%(540,815名)が首都のあるアンマン(県)をはじめヨルダンの都市のある地域に集中して居住している.これまでの研究経過から,都市在住シリア難民障害者にとって居住コミュニティーでの社会参加制約の要因は障害や介護者の不足,難民という脆弱な社会的立場に留まらず,社会資源へのアクセスに対しての情報不足,避難コミュニティーでの孤立が明らかになった.障害をもつシリア難民が母国帰還を果たすために国際支援として何をすべきなのかを明らかにすることは,重要な課題である.本研究の目的は,都市在住シリア難民障害者自身が自らの状況をどのように認識しているかを調査した上で,その調査を踏まえ,この問いに答えることにある.
2. 対象と方法
(1)データ収集方法
ヨルダン首都アンマン地区に居住し身体機能障害を有するシリア人難民9名に対して,著者がオンライン通話可能であるインターネットアプリケーションSkypeを活用し半構造化面接をアラビア語で実施した.調査期間は2020年9月15日から2020年11月30日である.まず研究対象者に対象属性(性別,年齢,疾患名,ヨルダンでの居住年数,基本動作の遂行度)について聴取した.また半構造化面接で(1)避難コミュニティーでの生計状況,(2)本国シリアへの帰還の意思と課題,(3)障害が起因する生活上の困難,(4)自らの障害への認識について質問した.本研究の実施にあたり神戸大学大学院保健学倫理委員会の承認(承認番号886)を得て実施した.
(2)データ分析方法
データ分析方法は,面接内容から作成したインタビューごとの逐語録を,継続的比較法を参考に帰納的に分類した.
3. 結果
研究参加者はヨルダン首都居住する男性9名,平均年齢と標準偏差は28±2.45才,疾患名は脊髄損傷名,末梢神経損傷名であった.ヨルダンでの難民生活期間は平均5±2.25年であり,移動動作の遂行状況は車椅子自走1名,車椅子介助8名,であった.平均面接時間は19分である.半構造化面接データ分析の結果から【ヨルダンで生計を立てることが困難である】,【シリアに帰還しても生計を立てることが困難である】,【シリアでは十分な医療を受けられない】,【帰還を望むが紛争の影響で帰還が困難である】の4つのカテゴリーが抽出された.
4. 考察
 本研究では,都市居住シリア難民障害者は,避難先コミュニティーでも障害者の権利や生計に課題があり,COVID-19の感染や予防対策も重なって本国帰還への行動が制限されており,シリア国内でもヨルダンと同様に医療サービス,就労の制限があることが明らかになった.国際協力の視点からは,一時的な物資や医療の提供だけでなく,都市在住シリア難民障害者が自立して生活できるような自助団体の組織化とその構成メンバーの育成について支援を行なっていく必要性が示唆された.