第56回日本作業療法学会

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一般演題

地域

[ON-9] 一般演題:地域 9

2022年9月18日(日) 09:40 〜 10:40 第5会場 (RoomB)

座長:野田 和恵(神戸大学)

[ON-9-4] 口述発表:地域 9Grit(やり抜く力)を用いた地域在住高齢者の心理特性分析

~ウイズコロナを乗り越える生活機能改善策に向けて~

田代 大祐1小川 真寛1大庭 潤平1 (1神戸学院大学総合リハビリテーション学部)

【緒言】
 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)感染拡大は,高齢者において感染リスクは勿論のこと外出の機会を失うことによる健康への悪影響が懸念されている.また現在,住民運営の通いの場などの介護予防事業の多くはCOVID-19感染拡大状況に応じて,活動の休止・縮小を余儀なくされている.このような状況は高齢者の生活機能の悪化に大きな影響を及ぼすことが予測され,早急な対策が求められる事態である.近年,「困難な状態でもめげることなく,自ら目標に向かって最後までやり抜く力(Grit)」という心理特性を表す概念が注目されている.このGritは,まさに困難な状況下にある現代人において必要な心理特性であり,高齢者がどういう傾向にあるのか知ることは今後の生活機能悪化を予防する対応策を検討する上で意義があると考えた.
【目的】
 本研究はCOVID-19感染拡大前後の生活機能の変化とGritの関係性を明らかにし,ウイズコロナを乗り越える生活機能改善策への検討資料の一つとなることを目的とした.
【方法】
 対象は,兵庫県明石市が支援している自主グループ(通いの場)77か所に通っている地域在住高齢者540名(女性447名,平均年齢79.6±6.3歳)とした.尚,本研究は本学倫理審査委員会の承認後,対象者に説明と同意を得てから実施した.また本調査は,明石市福祉局地域共生社会室の協力を得て実施した.
 対象には基本チェックリストの1から20までの 20項目およびGrit(Short Grit Scale)の全8項目についてのアンケートを実施した.調査期間は2021年6月から10月であった.また,基本チェックリストについては過去に遡り,COVID-19感染拡大前の2018年5月から2020年2月データを後ろ向きに収集した(平均経過日数712±169.9日).
 解析方法は,COVID-19拡大前後における基本チェックリストの各領域の変化値から維持向上群,低下群の2群に分け,その2群に対してGritの下位項目である「根気」,「一貫性」の2因子をMannWhitneyのU検定を用いて比較した.尚,有意水準は5%とした.
【結果】
 基本チェックリストにおいて生活機能,認知機能領域の維持向上群が低下群と比較して有意に「根気」の因子で高値を示した(p<0.05).また,口腔機能,閉じこもり領域の維持向上群が低下群と比較して有意に「一貫性」の因子で高値を示した(p<0.05).加えて,生活機能,口腔機能,認知機能領域の維持向上群が低下群と比較して有意に総Grit値で高値を示した(p<0.05).
【考察】
 本研究の結果から,COVID-19感染拡大に伴う地域在住高齢者の生活機能低下にGritが関係していることが明らかとなった.加えて,基本チェックリストの各領域別に心理特性を明らかにすることができた.これにより根気の強い者は口腔機能や認知機能の低下に陥り難く,一貫性の高い者は生活機能や口腔機能の低下,閉じこもりに陥り難いことが示唆された.Duckworthらは,Gritの心理特性について,生まれ持った能力ではなく今からでも身に付けることができる能力であると報告しており,Gritを伸ばす方法論も先行研究により明確に示している.このことから,Gritは年齢を問わず伸ばしていくことが可能であり,「根気」や「一貫性」という各因子を評価し,適切に伸ばしていくような取り組みを行うことで,ウイズコロナの介護予防において有効な対応策となりうるのではないかと考えた.