第56回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

脳血管疾患等

[PA-9] ポスター:脳血管疾患等 9

2022年9月17日(土) 13:30 〜 14:30 ポスター会場 (イベントホール)

[PA-9-2] ポスター:脳血管疾患等 9地域在住脳損傷患者の自動車運転中止後の外出頻度の変化とその要因の検討

末次 亮平12後藤 純信2 (1社会医療法人シマダ嶋田病院リハビリテーション科,2国際医療福祉大学大学院保健医療学専攻)

【背景と目的】
近年,高齢運転者による死亡事故件数の全体に占める割合は増加し(交通事故統計,2020)社会問題となっている.また脳卒中は自動車運転事故に関与するリスクが高いことが指摘されている(GeraldMcGwin, Jr.,2000).そのような中で,脳損傷者を対象とした自動車運転再開支援が広がってきているが,運転の可否判断に焦点を当てたものが多く,脳損傷後の運転断念に関する報告や,運転断念後の外出頻度やその変化に関わる要因に焦点を当てた報告は見当たらない.また,免許返納後の「困りごと」については都市部と比較し郊外・中山間部で差を認め(橋本ら,2012),行政や民間企業による支援についても地域差がみられる(加藤,2016)のが現状である.そのような背景から,運転断念した対象者の外出支援の現状を明らかにし,実際の支援の基盤データを確立する必要があり,本研究では,当地域において自動車運転断念後の外出頻度の変化とその要因について調査することを目的としている.
【対象と方法】
対象は当院にて2019年3月から2021年5月までの期間に脳損傷後に自動車運転支援を行った179名(平均年齢68.9±10.3歳,入院患者166名,外来患者13名)とした.研究の方法は,性別・年齢・現在の自動車運転の有無・病前と現在の外出頻度・同居家族の有無,仕事の有無・付き合いの有無・介護保険の有無について郵送による自己記入式質問紙調査を実施し,運動麻痺の有無を電子カルテより後方視的に抽出した.得られた結果より,外出頻度維持群・低下群に分け,年齢との比較をMannWhitneyのU検定,自動車運転の有無と運動麻痺の有無との比較についてはχ²検定,その他の項目についてはFisherの直接法にて比較を行った.また,外出頻度を目的変数とし,有意差を認めた項目に関してはロジスティック回帰分析を行った.
【倫理的配慮】
本研究は当院と国際医療福祉大学の倫理審査委員会の承認を得て実施した.
【結果】
質問紙の回収率は33.0%であった.その中で外出頻度維持された者が39名,低下した者が20名であった.外出頻度維持群・低下群の間に有意差を認めた項目は自動車運転の有無(p=0.0001)であった.ロジスティック回帰分析の結果,自動車運転の有無が説明変数として採択された(オッズ比0.094,p=0.001,95%信頼区間:0.024~0.364,的中率:77.96%).
【まとめ】
今回,脳損傷者の自動車運転断念後の外出頻度の変化に対して自動車運転の有無が説明変数として採択され,脳損傷後に自動車運転を断念することで外出頻度が低下することが分かった.先行研究では自動車運転免許の有無で外出頻度に差がみられ(国土交通省,2017),また自動車運転は都市部と比較し地方部で外出頻度に影響を与えることが指摘されており(柳原ら,2017),本研究では先行研究と同様の結果となった.これは調査対象が,脳損傷者の中でも屋外歩行が可能である者を対象とし身体機能が高かったことや,当地域は地方部であり自動車運転が外出時に必要性の高い手段の一つとなっているためであると考える.今回の結果により,当地域において脳損傷者自動車運転再開に向けた支援のみならず,運転断念後の支援についても重要であると考える.