[PD-3-2] ポスター:運動器疾患 3高齢大腿切断者の在宅復帰に向けた作業療法士の役割~義足適応とならなかった症例を通して~
【はじめに】
下肢切断者が在宅復帰を目指していく上で日常生活全般にわたる支援が必要となるが,作業療法介入によるADL再獲得過程の報告や,義足適応とならなかった症例に対する報告は少ない.今回,義足適応とならなかった右大腿切断の症例に対し,自宅退院に向けて自助具の作成や自宅環境の調整を行ったため,ここに報告する.
【症例紹介】
70歳代男性.既往に脳梗塞あるも酪農を営んでおり,重機や自動車運転も行っていた.仕事中に右下肢がトウモロコシ粉砕機に挟まれ右大腿挫滅となり救急搬送.同日,右小転子下40㎜にて右大腿切断となった.受傷後21日目にリハビリ目的で当院転院,理学療法開始.受傷後39日目に回復期病棟へ転棟,その後断端部に肉芽腫の形成を認め,受傷後67日目に除去された.受傷後70日目に回復期作業療法が追加処方された.なお,報告に際し書面にて説明し同意を得た.
【作業療法評価】
筋力は左下肢・両上肢ともにMMT5.FIMのセルフケア項目は38点と概ね自立.病棟内での移動は車椅子自走にて自立していたが,前院・当院にて移乗時に数回転倒歴あり.面接では自宅退院に向けて不安の訴えあるが,介入場面では楽観的な発言も多く,動作時の安全管理不十分であった.
【経過】
作業療法では,トイレまでの移動方法,トイレ動作,自宅環境を主な問題点として上げ介入した.退院後の移動手段は症例やご家族,他職種と相談し,転倒リスクを考慮した上で車椅子が想定された.自宅は居間からトイレに続く廊下の幅が狭く,ハンドリムを使用した車椅子自走では手が壁に接触してしまうことが考えられた.そのため,パーテーションで廊下の幅を再現し,左下肢のみでの車椅子自走練習を行うことで動作の獲得に繋がった.トイレ動作に関して,病棟内でのトイレ動作は自立していたが,下衣が床まで落下することがあった.床に落下した下衣を持ち上げることは可能だが,転倒リスクが高く,症例自身も不便さを感じていたため,自助具の作成を試みた.自助具は自宅にある物でも再現できるように洗濯ばさみと紐を利用し作成した.自助具を用いて下衣の落下を簡単に防ぐことができ,症例の満足感も得られた.自宅環境に関して症例はトイレの出入り口が狭く,開き戸であることや上がり框が高いことに対して不安を訴えていた.退院支援を行う上でも問題となると考え,同意を得て他職種と連携し家屋調査を実施した.家屋調査後,トイレは手すり設置位置や扉変更の提案,上がり框は段差昇降器の設置が不可能だったため,電動昇降座椅子の提案やいざり動作の練習等を行った.自宅を想定した練習や家屋調査後の環境調整により,退院後の生活をイメージでき,自信がついたことで復職の希望も聞かれるようになった.受傷後118日目に自宅退院,入院中に考案した自宅の環境調整・動作方法の評価や改善,復職支援を目的に訪問リハビリ介入となった.
【考察】
今回症例は,右大腿挫滅が広範囲であり救命が優先されたこと,高齢であること,脳梗塞の既往があることにより義足適応とならなかった.義足適応とならなかったことで生じた問題を把握し,自宅環境に沿った動作練習や自助具の作成,環境調整の提案を行ったことで,動作能力だけではなく自信や満足感といった心理面にも影響を与えられたと考えられる.先行事例や研究より,大腿切断者が義足適応となった場合のADL・IADLの向上は期待できるが,義足適応とならなかった患者は生活全般を見直す必要があり,作業療法の果たす役割は大きいのではないかと思われる.
下肢切断者が在宅復帰を目指していく上で日常生活全般にわたる支援が必要となるが,作業療法介入によるADL再獲得過程の報告や,義足適応とならなかった症例に対する報告は少ない.今回,義足適応とならなかった右大腿切断の症例に対し,自宅退院に向けて自助具の作成や自宅環境の調整を行ったため,ここに報告する.
【症例紹介】
70歳代男性.既往に脳梗塞あるも酪農を営んでおり,重機や自動車運転も行っていた.仕事中に右下肢がトウモロコシ粉砕機に挟まれ右大腿挫滅となり救急搬送.同日,右小転子下40㎜にて右大腿切断となった.受傷後21日目にリハビリ目的で当院転院,理学療法開始.受傷後39日目に回復期病棟へ転棟,その後断端部に肉芽腫の形成を認め,受傷後67日目に除去された.受傷後70日目に回復期作業療法が追加処方された.なお,報告に際し書面にて説明し同意を得た.
【作業療法評価】
筋力は左下肢・両上肢ともにMMT5.FIMのセルフケア項目は38点と概ね自立.病棟内での移動は車椅子自走にて自立していたが,前院・当院にて移乗時に数回転倒歴あり.面接では自宅退院に向けて不安の訴えあるが,介入場面では楽観的な発言も多く,動作時の安全管理不十分であった.
【経過】
作業療法では,トイレまでの移動方法,トイレ動作,自宅環境を主な問題点として上げ介入した.退院後の移動手段は症例やご家族,他職種と相談し,転倒リスクを考慮した上で車椅子が想定された.自宅は居間からトイレに続く廊下の幅が狭く,ハンドリムを使用した車椅子自走では手が壁に接触してしまうことが考えられた.そのため,パーテーションで廊下の幅を再現し,左下肢のみでの車椅子自走練習を行うことで動作の獲得に繋がった.トイレ動作に関して,病棟内でのトイレ動作は自立していたが,下衣が床まで落下することがあった.床に落下した下衣を持ち上げることは可能だが,転倒リスクが高く,症例自身も不便さを感じていたため,自助具の作成を試みた.自助具は自宅にある物でも再現できるように洗濯ばさみと紐を利用し作成した.自助具を用いて下衣の落下を簡単に防ぐことができ,症例の満足感も得られた.自宅環境に関して症例はトイレの出入り口が狭く,開き戸であることや上がり框が高いことに対して不安を訴えていた.退院支援を行う上でも問題となると考え,同意を得て他職種と連携し家屋調査を実施した.家屋調査後,トイレは手すり設置位置や扉変更の提案,上がり框は段差昇降器の設置が不可能だったため,電動昇降座椅子の提案やいざり動作の練習等を行った.自宅を想定した練習や家屋調査後の環境調整により,退院後の生活をイメージでき,自信がついたことで復職の希望も聞かれるようになった.受傷後118日目に自宅退院,入院中に考案した自宅の環境調整・動作方法の評価や改善,復職支援を目的に訪問リハビリ介入となった.
【考察】
今回症例は,右大腿挫滅が広範囲であり救命が優先されたこと,高齢であること,脳梗塞の既往があることにより義足適応とならなかった.義足適応とならなかったことで生じた問題を把握し,自宅環境に沿った動作練習や自助具の作成,環境調整の提案を行ったことで,動作能力だけではなく自信や満足感といった心理面にも影響を与えられたと考えられる.先行事例や研究より,大腿切断者が義足適応となった場合のADL・IADLの向上は期待できるが,義足適応とならなかった患者は生活全般を見直す必要があり,作業療法の果たす役割は大きいのではないかと思われる.