[PD-3-4] ポスター:運動器疾患 3おしゃれをして装うことで自分らしさを取り戻した大腿骨転子部骨折の一事例
【はじめに】
装うことには衛生・生活習慣の確保,社会参加・自己表現の手段としての意味等がある.回復期において,前者としての更衣整容動作の報告は見られるが,後者としての装いに関する報告は少ない.今回,装うことが意味のある作業であった右大腿骨転子部骨折(以下FTF)のクライエント(以下CL)に対して装いに焦点を当てた作業療法(以下OT)を実践したので,その経過を報告する.
【説明と同意】
事例報告に際しCL本人に主旨,目的を説明し同意書面に署名を得た.
【事例紹介】
80代女性,外出先で転倒し右FTFと右上腕骨骨折を受傷,3病日にそれぞれの部位にORIFを施行.回復期リハビリテーション目的で23病日に当院へ転院.夫,娘と同居.夫と呉服屋を営んでいる.昔からおしゃれが好きでよく銀座に買い物に行った.馴染みの客や近所の人から服装を褒められることもあった.
【作業療法初期評価~方針】
ADOCを用いた面接を行った.優先度が高い順に①箸を使う②トイレに行く③散歩に行く④洗濯,アイロンがけ,食事の片づけが挙がった.満足度は評価困難であった.下肢筋力の低下や疼痛,右前腕のROM制限やしびれにより歩行能力と上肢機能が低下し,FBS32/56,FIM44/126で移動手段は車いすであった.おしゃれに対しては「どこにも行かないからいいわよ」「無理だと思うよ」と消極的であった.OTRは作業歴からおしゃれが意味のある作業であると考えたが,CLは機能回復に焦点が当たっていた.CLの思いを満たし身辺動作を獲得することで,段階的におしゃれへ焦点が当たることを期待して,まずは上肢機能を向上し箸操作の再獲得を支援することを方針とした.
【作業療法経過】
箸操作練習では思うように動かせず「情けない」とさらに自信を失う様子が見られた.また理学療法(以下PT)では,易疲労性を訴え積極的に取り組むことが困難で能力の向上が緩やかであった.その頃CLが,昔から少しでも白髪が見えるようになると白髪染めをするまで外出せず,今は白髪が伸びてみっともないと語られたことをきっかけに,おしゃれをして装うことを提案した.CLは遠慮がちであったが嬉しそうな様子であった.病棟と協力し54病日に白髪染めを実施した.好きな服を着てアクセサリーをつけ,口紅を塗ることも実施した.「若返ったみたい」「私を見て」と笑顔が見られた.初期のADOCであがった項目については前向きな発言が現れ,「退院したらパーマ屋に行きたい」「おしゃれをして病院に見せに来たい」とも語られた.PTも積極的に実施することができるようになり杖歩行を獲得,FBS40/56,FIM100/126へ向上した.退院後におしゃれを楽しむには自宅2階の鏡台がある部屋に行く必要があったが,環境調整の上で階段昇降が可能になり,93病日に自宅退院予定となった.退院直前の夜間に転倒し急性期病院へ転院となったが,大事に至らず自宅退院となった.
【考察】
本事例は社会参加や自己表現の手段として装うことを楽しんでいたが,受傷により低下した上肢機能に強く囚われていた.白髪染めやアクセサリーなどでおしゃれをして装う機会を提供したことが,前向きな感情を呼び起こし,CLらしさを取り戻すことへつながった.さらに今後の人生に対する語りの変化やOTのみならずPTへの姿勢も積極的となり身体機能の改善につながりリハビリテーションが促進された.
回復期病棟での生活は長期にわたるが,本来のその人らしい装いを確保できる機会は少ないのではないか.おしゃれをして装うことは,自己評価を高め,気分を高揚させるなど,心理・情動面に前向きな変化をもたらすことが多数報告されている.回復期の作業療法においてもCLにとっての本来の意味に基づいた装いやおしゃれを行うことが有用だと考えられた.
装うことには衛生・生活習慣の確保,社会参加・自己表現の手段としての意味等がある.回復期において,前者としての更衣整容動作の報告は見られるが,後者としての装いに関する報告は少ない.今回,装うことが意味のある作業であった右大腿骨転子部骨折(以下FTF)のクライエント(以下CL)に対して装いに焦点を当てた作業療法(以下OT)を実践したので,その経過を報告する.
【説明と同意】
事例報告に際しCL本人に主旨,目的を説明し同意書面に署名を得た.
【事例紹介】
80代女性,外出先で転倒し右FTFと右上腕骨骨折を受傷,3病日にそれぞれの部位にORIFを施行.回復期リハビリテーション目的で23病日に当院へ転院.夫,娘と同居.夫と呉服屋を営んでいる.昔からおしゃれが好きでよく銀座に買い物に行った.馴染みの客や近所の人から服装を褒められることもあった.
【作業療法初期評価~方針】
ADOCを用いた面接を行った.優先度が高い順に①箸を使う②トイレに行く③散歩に行く④洗濯,アイロンがけ,食事の片づけが挙がった.満足度は評価困難であった.下肢筋力の低下や疼痛,右前腕のROM制限やしびれにより歩行能力と上肢機能が低下し,FBS32/56,FIM44/126で移動手段は車いすであった.おしゃれに対しては「どこにも行かないからいいわよ」「無理だと思うよ」と消極的であった.OTRは作業歴からおしゃれが意味のある作業であると考えたが,CLは機能回復に焦点が当たっていた.CLの思いを満たし身辺動作を獲得することで,段階的におしゃれへ焦点が当たることを期待して,まずは上肢機能を向上し箸操作の再獲得を支援することを方針とした.
【作業療法経過】
箸操作練習では思うように動かせず「情けない」とさらに自信を失う様子が見られた.また理学療法(以下PT)では,易疲労性を訴え積極的に取り組むことが困難で能力の向上が緩やかであった.その頃CLが,昔から少しでも白髪が見えるようになると白髪染めをするまで外出せず,今は白髪が伸びてみっともないと語られたことをきっかけに,おしゃれをして装うことを提案した.CLは遠慮がちであったが嬉しそうな様子であった.病棟と協力し54病日に白髪染めを実施した.好きな服を着てアクセサリーをつけ,口紅を塗ることも実施した.「若返ったみたい」「私を見て」と笑顔が見られた.初期のADOCであがった項目については前向きな発言が現れ,「退院したらパーマ屋に行きたい」「おしゃれをして病院に見せに来たい」とも語られた.PTも積極的に実施することができるようになり杖歩行を獲得,FBS40/56,FIM100/126へ向上した.退院後におしゃれを楽しむには自宅2階の鏡台がある部屋に行く必要があったが,環境調整の上で階段昇降が可能になり,93病日に自宅退院予定となった.退院直前の夜間に転倒し急性期病院へ転院となったが,大事に至らず自宅退院となった.
【考察】
本事例は社会参加や自己表現の手段として装うことを楽しんでいたが,受傷により低下した上肢機能に強く囚われていた.白髪染めやアクセサリーなどでおしゃれをして装う機会を提供したことが,前向きな感情を呼び起こし,CLらしさを取り戻すことへつながった.さらに今後の人生に対する語りの変化やOTのみならずPTへの姿勢も積極的となり身体機能の改善につながりリハビリテーションが促進された.
回復期病棟での生活は長期にわたるが,本来のその人らしい装いを確保できる機会は少ないのではないか.おしゃれをして装うことは,自己評価を高め,気分を高揚させるなど,心理・情動面に前向きな変化をもたらすことが多数報告されている.回復期の作業療法においてもCLにとっての本来の意味に基づいた装いやおしゃれを行うことが有用だと考えられた.