[PJ-9-3] ポスター:高齢期 9拮抗体操時の脳血流動態と主観的難易度および客観的難易度との関係
はじめに
日本の認知症者数は2025年に約650-700万人,2040年に約800-950万人と増加することが予測されている.近年,MCIの早期発見,早期介入は認知症介護予防において重要視され,認知機能の維持向上を目的としたリハビリテーションの研究開発が進んできている.拮抗体操は,課題遂行時の前頭前野背外側部を賦活することから,認知的アプローチとして介護予防領域で活用されている.本研究の目的は,拮抗体操課題において主観的難易度や客観的難易度が,脳血流動態と関連があるかどうかを明らかにすることである.
方法
対象は,健常成人41名(男性14名,女性27名,平均年齢21.2±1.2歳)であった.被験者は,静穏環境にて椅子座位で1m前方に配置されたPCモニターに提示された課題を模倣した.見本動作は,左右の手でそれぞれピストルとキツネの型を作り,2秒に1回,交互に肘を屈伸させるとともに手型を変換させる動きとした.脳血流動態は,近赤外分光法(Near Infra-Red Spectroscopy:NIRS)を用い,10チャンネルのヘッドセットを前額部に装着することで前頭前野の酸素化ヘモグロビン濃度(Oxy-Hb)の相対的な変化量を測定した.閉眼安静30秒後に,開眼し10秒間PCモニターに映る十字を見つめてもらい,その間の脳血流動態をベースラインとした.その後に映像が切り替わり,模倣開始から60秒間をデータ解析に用いた.エラー数の計測には,ビデオカメラで課題を実施している被験者を撮影し,実施後に誤動作を確認した.主観的難易度については,Visual Analogue Scale(VAS)を用いて評価した.VASは,長さ100mmの線の左端を「全く難しくない」として,被験者にどの程度難しいと感じたのか評価する視覚的スケールである.統計解析にはOxy-Hb値とVASおよびエラー数との相関をSpearmanの順位相関係数を用いて解析した.なお,有意水準は5%未満とした.本研究は,当該施設の倫理審査委員会の承認を得て実施した.
結果
課題時の前頭前野の平均Oxy-Hb値とVAS(r=0.360,p<0.05),Oxy-Hbとエラー数(r=0.309,p<0.05)との間に正の相関を認めた.また,VASとエラー数との間に正の相関を認めた(r=0.333,p<0.05).
考察
前頭前野Oxy-Hbと主観的難易度との正相関は,課題に対して難しさを感じるほど,前頭前野の脳血流動態が増大することを示している.また,前頭前野Oxy-Hbと客観的難易度との正相関は,エラー数が高値であるほど,前頭前野の脳血流動態が増大することを示している.本研究で用いた拮抗体操課題は,両上肢の肘部と手指部の型へ注意配分をしながら,新規運動を学習する課題であり,前頭前野の動員が求められる.課題中に過度に難しさを感じたり,エラー数が高値であった対象者の場合,早期に課題へ適応するために,前頭前野を大幅に賦活させたのではないかと考える.臨床への展望としては,課題中のVASとエラー数を評価することで,NIRSの代用として前頭前野の賦活状況を予測できる可能性を示唆した.
日本の認知症者数は2025年に約650-700万人,2040年に約800-950万人と増加することが予測されている.近年,MCIの早期発見,早期介入は認知症介護予防において重要視され,認知機能の維持向上を目的としたリハビリテーションの研究開発が進んできている.拮抗体操は,課題遂行時の前頭前野背外側部を賦活することから,認知的アプローチとして介護予防領域で活用されている.本研究の目的は,拮抗体操課題において主観的難易度や客観的難易度が,脳血流動態と関連があるかどうかを明らかにすることである.
方法
対象は,健常成人41名(男性14名,女性27名,平均年齢21.2±1.2歳)であった.被験者は,静穏環境にて椅子座位で1m前方に配置されたPCモニターに提示された課題を模倣した.見本動作は,左右の手でそれぞれピストルとキツネの型を作り,2秒に1回,交互に肘を屈伸させるとともに手型を変換させる動きとした.脳血流動態は,近赤外分光法(Near Infra-Red Spectroscopy:NIRS)を用い,10チャンネルのヘッドセットを前額部に装着することで前頭前野の酸素化ヘモグロビン濃度(Oxy-Hb)の相対的な変化量を測定した.閉眼安静30秒後に,開眼し10秒間PCモニターに映る十字を見つめてもらい,その間の脳血流動態をベースラインとした.その後に映像が切り替わり,模倣開始から60秒間をデータ解析に用いた.エラー数の計測には,ビデオカメラで課題を実施している被験者を撮影し,実施後に誤動作を確認した.主観的難易度については,Visual Analogue Scale(VAS)を用いて評価した.VASは,長さ100mmの線の左端を「全く難しくない」として,被験者にどの程度難しいと感じたのか評価する視覚的スケールである.統計解析にはOxy-Hb値とVASおよびエラー数との相関をSpearmanの順位相関係数を用いて解析した.なお,有意水準は5%未満とした.本研究は,当該施設の倫理審査委員会の承認を得て実施した.
結果
課題時の前頭前野の平均Oxy-Hb値とVAS(r=0.360,p<0.05),Oxy-Hbとエラー数(r=0.309,p<0.05)との間に正の相関を認めた.また,VASとエラー数との間に正の相関を認めた(r=0.333,p<0.05).
考察
前頭前野Oxy-Hbと主観的難易度との正相関は,課題に対して難しさを感じるほど,前頭前野の脳血流動態が増大することを示している.また,前頭前野Oxy-Hbと客観的難易度との正相関は,エラー数が高値であるほど,前頭前野の脳血流動態が増大することを示している.本研究で用いた拮抗体操課題は,両上肢の肘部と手指部の型へ注意配分をしながら,新規運動を学習する課題であり,前頭前野の動員が求められる.課題中に過度に難しさを感じたり,エラー数が高値であった対象者の場合,早期に課題へ適応するために,前頭前野を大幅に賦活させたのではないかと考える.臨床への展望としては,課題中のVASとエラー数を評価することで,NIRSの代用として前頭前野の賦活状況を予測できる可能性を示唆した.