[PK-2-4] ポスター:認知障害(高次脳機能障害を含む) 2前脳基底部健忘による作話と行動障害が顕著であった事例
【はじめに】事例は前脳基底部健忘と考えられる自発性作話(以下,作話)と作話に従った不適切な行動が顕著であり対応に難渋した.作話が生じにくい環境に配慮した介入と,病識・見当識の定着を促したことにより,作話と行動障害の軽減に至ったため,経過に考察を加え報告する.尚発表にあたり事例の同意を得ている.
【事例紹介】70歳代男性.右尾状核出血(尾状核頭~視床A・VA・DM・LD核への進展,脳室穿破あり)を発症し,保存的加療を受け14病日に当院回復期病棟に転院となった. 左下肢に軽度麻痺があったが独歩は可能であった. 病前は車の修理,メンテナンスの仕事をしていた. 不明の右股関節痛があり,「カーレースで事故にあった」と話した.前向性健忘,30年に及ぶ逆行性健忘に加え,「ここは鈴鹿」「息子がレースで優勝した」等の作話,作話の内容に従った行動(レースに行くと徘徊する,リハビリ<以下,リハ>を拒否する等)が頻回にみられた.会話中にも作話が混じるため内容に一貫性がなく,作話を否定すると怒る場面もあり対応に難渋した.記憶障害は重度だが,記憶障害や脳出血の発症は否定していた.15病日目の神経学的所見は,MMSE:21/30, RBMT:2/24,FAB:12/18, BADS:3/24,Kohs立方体:IQ47であった.
【病態解釈】前脳基底部健忘の責任病巣は,前脳基底部以外に線条体の損傷の報告がある.症状はコルサコフ症候群と類似する部分もあるが,非常に活発な作話,出来事の順序や状況に合わない作話や,作話の内容に従って行動するといった特徴と合致するため,前脳基底部健忘であると考えた.前脳基底部健忘の症状である作話に加え,病識欠如や脱抑制により徘徊,リハ拒否といった不適切な行動が生じていると考えた.
【介入方針】種村純(2009)は,社会的行動障害に対し障害と自己の認識を高め,望ましい行動に導く必要があると述べている.自身の行動を振り返る機会をつくることで病識や見当識を促し,行動障害の軽減を図りたいと考えた.しかし,事例は活発な作話により介入が困難であった.事例の作話は,場所を変え話題を転換すると軽減する場面が観察されたため,環境に配慮した上で介入を行う必要があると考えた.
【経過と結果】自室から出てもらう,介入時間を変更するといった配慮をすることで作話が軽減した.更に本人の関心が強い車関連の教材を用いることで,リハに関心を持つようになった.見当識と病識に関する情報を与え,想起やノートへの記載を行うと,徐々に手がかり再生が可能となり,反復すると自由再生も可能となった.記憶課題の結果のフィードバックや振り返りを行うと,初期は直前の訓練を記憶していなかったが,次第に「全然覚えてないな」と自覚するようになった.メモリーノートは記載や確認には促しが必要であったが,リハ時に自ら持参することは出来るようになった. 発症より9週後に作話は消失し徘徊も軽減した. 病識については「頭の中の怪我で入院している」「頭が悪くなっている」と発言した.情動面には変動があり活気は乏しかったが,リハへの拒否はなく,会話中の冗談や自室で雑誌を見て過ごす様子もみられた.90病日目の神経学的所見は,MMSE:21/30点,RBMT:14/24点,FAB:9/18点,BADS:11/24点Kohs立方体:IQ75であった.
【考察】前脳基底部健忘の作話は,亜急性期までに大部分は消失するが,慢性的に持続する例の報告もある.本事例においては,回復期に作話の改善を認め慢性化には至らなかった.作話はエピソード記憶の障害と自己監視能力の低下が背景と考えられており,作話が生じにくい環境に着目したこと,手がかり再生を用いながら見当識と病識を学習したことが不適切な行動の軽減に繋がったと考える.
【事例紹介】70歳代男性.右尾状核出血(尾状核頭~視床A・VA・DM・LD核への進展,脳室穿破あり)を発症し,保存的加療を受け14病日に当院回復期病棟に転院となった. 左下肢に軽度麻痺があったが独歩は可能であった. 病前は車の修理,メンテナンスの仕事をしていた. 不明の右股関節痛があり,「カーレースで事故にあった」と話した.前向性健忘,30年に及ぶ逆行性健忘に加え,「ここは鈴鹿」「息子がレースで優勝した」等の作話,作話の内容に従った行動(レースに行くと徘徊する,リハビリ<以下,リハ>を拒否する等)が頻回にみられた.会話中にも作話が混じるため内容に一貫性がなく,作話を否定すると怒る場面もあり対応に難渋した.記憶障害は重度だが,記憶障害や脳出血の発症は否定していた.15病日目の神経学的所見は,MMSE:21/30, RBMT:2/24,FAB:12/18, BADS:3/24,Kohs立方体:IQ47であった.
【病態解釈】前脳基底部健忘の責任病巣は,前脳基底部以外に線条体の損傷の報告がある.症状はコルサコフ症候群と類似する部分もあるが,非常に活発な作話,出来事の順序や状況に合わない作話や,作話の内容に従って行動するといった特徴と合致するため,前脳基底部健忘であると考えた.前脳基底部健忘の症状である作話に加え,病識欠如や脱抑制により徘徊,リハ拒否といった不適切な行動が生じていると考えた.
【介入方針】種村純(2009)は,社会的行動障害に対し障害と自己の認識を高め,望ましい行動に導く必要があると述べている.自身の行動を振り返る機会をつくることで病識や見当識を促し,行動障害の軽減を図りたいと考えた.しかし,事例は活発な作話により介入が困難であった.事例の作話は,場所を変え話題を転換すると軽減する場面が観察されたため,環境に配慮した上で介入を行う必要があると考えた.
【経過と結果】自室から出てもらう,介入時間を変更するといった配慮をすることで作話が軽減した.更に本人の関心が強い車関連の教材を用いることで,リハに関心を持つようになった.見当識と病識に関する情報を与え,想起やノートへの記載を行うと,徐々に手がかり再生が可能となり,反復すると自由再生も可能となった.記憶課題の結果のフィードバックや振り返りを行うと,初期は直前の訓練を記憶していなかったが,次第に「全然覚えてないな」と自覚するようになった.メモリーノートは記載や確認には促しが必要であったが,リハ時に自ら持参することは出来るようになった. 発症より9週後に作話は消失し徘徊も軽減した. 病識については「頭の中の怪我で入院している」「頭が悪くなっている」と発言した.情動面には変動があり活気は乏しかったが,リハへの拒否はなく,会話中の冗談や自室で雑誌を見て過ごす様子もみられた.90病日目の神経学的所見は,MMSE:21/30点,RBMT:14/24点,FAB:9/18点,BADS:11/24点Kohs立方体:IQ75であった.
【考察】前脳基底部健忘の作話は,亜急性期までに大部分は消失するが,慢性的に持続する例の報告もある.本事例においては,回復期に作話の改善を認め慢性化には至らなかった.作話はエピソード記憶の障害と自己監視能力の低下が背景と考えられており,作話が生じにくい環境に着目したこと,手がかり再生を用いながら見当識と病識を学習したことが不適切な行動の軽減に繋がったと考える.